Twitter上で、ある記事が広まりちょっとした問題になった。
記事を掲載したのは「虚構新聞」。
サイト説明には以下のように書かれている
当サイトは現実のニュースをパロディにした諷刺・皮肉が開設の目的であり、この記事を通じて元ネタである世の諸事象に関心を抱いていただきたいと思っております。
要するにウソを書き連ねたネタサイトだ。
今回問題になった記事は以下のもの。
リンクはしないが、この記事に対してのTwitter上での反応がtogetterやNAVERまとめなどに掲載されているのを見てからこの記事を閲覧し、ひどい内容だと思った。
橋下市長、市内の小中学生にツイッターを義務化(虚構新聞)
いかがだろうか。
実在する人物、実在する自治体、実在するサービスの固有名詞が書かれていて、どこから入手したのか、本人の顔写真まで掲載している。
ページレイアウトは新聞サイトを模したもので、ドメインも京都新聞(kyoto-np.co.jp)を模したkyoko-np.netを使用している(過去のインタビュー記事で本人が明言している)
そして、この記事を信じた人がTwitter上で多数現れ、それを見た人たちがバカにして笑うという結果となった。
この記事を掲載した虚構新聞、それを見て信じた人、そしてそれを笑った人。一体誰が間違いを犯したのだろうか?
私は、虚構新聞に一番の責任があると考えている。
虚構新聞には一応ページ内に、注意書きへのリンクがある。上のスクリーンショットを見て、どこにそのリンクがあるか分かるだろうか?
こんな所にリンクがある。
「注意書きがあるので見落とした人が悪い」といった論調で騙された人を批判する人がいるが、それなら「ワンクリック詐欺は引っかかる奴が悪いから詐欺師は無罪」という理屈になる。そんな馬鹿な話があるか。
あらかじめ虚構新聞がどういうサイトなのか知っている人は、「なんだ、虚構新聞じゃないか」とすぐに気づくかもしれない。しかし、単なる個人サイトのローカルルールを日本語圏のインターネット全体のスタンダードにできるはずがない。虚構新聞が既知であることは例外と考えるべきだ。
虚構新聞の存在を知らずに、記事を見て疑問に思うことは結構難度が高い。サイトを作っている側が騙されやすいように作っていて、ウソであることをほとんどPRしていないのだから仕方がない。
勘違いしてほしくないのだが、ウソ記事であることに気づかずにTwitterで反応した人たちに責任がないと言っているのではない。騙すつもりで作られたサイトを見せられて騙されている人を見て、バカにして笑うのは非常にアンフェアだと主張したい。
さらにTwitterの性質上、一度騙された人が今度はデマの火種となることがあり、しかも当人は騙すつもりではなく信じきった状態で情報を広めるので信ぴょう性が格段に増加してしまう。
友達が「こんな記事がある、ひどいよね」と書いて、それを見に行ったら騙すための偽装が施されたサイトだったら、信じるなと言う方が難しい。
それでもなお、安易に信じるのは感心できる行為ではないが、貰い事故のようなものなのに、無関係な赤の他人にまとめあげられて、大勢の嘲笑の対象にするのはあまりに酷ではないだろうか。たまたま虚構新聞の存在を知っているだけの人間がそんなに偉そうに笑っていられるのか理解できない。
虚構新聞がせめて、サイトの作りがウソサイトであることがわかりやすくなっているか、固有名詞を変えるとか、少しの工夫で騙される人は減るだろう。
風刺やジョークというものは、見た人が笑えるものだが、今回の記事は風刺としてもジョークとしても低レベルのもので、笑いよりも不快感の連鎖を生み出している。今回の風刺をするために実名を使って、顔写真まで盗用すうる必要がどこにあったのだろうか?明らかにやりすぎだ。
読んだ人が笑うのではなく、読んで騙された人が嘲笑されるのが良い記事だと考えているなら方針を変えたほうがいい。
ジョークがつまらないとか、読んだ人が不快な思いをするのは、多かれ少なかれ通常のサイトでも起こりうる問題だが、今回の記事は橋下市長に失礼すぎるのではないだろうか。
今回騙された人が(一時的にせよ)橋下市長に対して評価を下げる結果になっている。単なるジョークではなく被害者が出ている。下手すりゃ名誉毀損で裁判になるのではないか。
(一応)本物の新聞である東スポも適当な記事で世間をにぎわし、「東スポなら仕方がない」みたいな反応をされるが、記事対象と裁判沙汰になることもある。虚構新聞も、実名や顔写真を使って新聞まがいのレイアウトで風刺するという、一般的なジョークのラインを超えて記事を書いているということは、裁判ぐらいの覚悟はあるんだろうか。
なお、サイト説明には以下の文章がある
◆記事引用の際のルール
(1)弊社記事の引用・印刷等、二次配布によって生じる可能性のある不利益・損害について、弊社は全く関知しません。すべて引用(印刷)者の責任でお願いします。
(2)記事の真偽を判断しないコピペ対策として、見出し・記事中に「これは嘘ニュースです」という隠し文字(背景と同色にした文字)を入れています。記事引用の際、これらの文言は、省いていただいてかまいませんが、このことから生じる結果責任は、引用者の自己責任でお願いします。
(3)引用記事へのコメントには、それが嘘であることを明確に言及する、あるいはほのめかすなど、あらかじめ引用記事が嘘であることをにおわせておいたほうが何かとトラブルを招かないと思います。
リンクを貼るためにHTMLの知識が必要で、ウェブに掲載するまでのタイムラグがあった時代なら、このルールでも通用しただろう。
今の時代にはこのルールはマッチしない。
特に3を守っている人をほとんど見かけない。
また、TwitterではURLが短縮され、表示環境もPCのブラウザ以外に携帯電話やスマートフォンなど多岐にわたる。RSSで人気記事配信(はてなブックマーク等)をしているサービスを経由すると、本文だけが届いて、タイトルロゴも見えない場合もあるし、画像を表示しない環境の人もいる。また、隠し文字を見ることができない環境は非常に多い。全てに配慮しろとは言わないが、上記のルールが今の多様化したネット環境に追い付いていない印象はぬぐえない。
そもそも、目立たない位置に書かれたローカルルールで責任逃れできると思っているなら、考えが甘すぎる。
サイトのデザインを変えるのが難しいのであれば、せめて各ページのタイトル(HTMLのtitleタグ内)に[虚構新聞]と入れて欲しい。記事に設置されているSNS連動用のボタンにも反映されれば、少なくとも上記のルール3に即した運用になるはずだ。タイトルを見ただけで虚構新聞だとわからないようにしているのは、ページレイアウトやドメイン名同様、騙すための仕掛けの一つだと考えているのだろう。しかし、それはほめられた行為ではない。
嘘だと簡単にわかるようになると、騙された人を嘲笑するのが趣味になっている人達は楽しみが減るし、記事へのアクセス数も減ると思うが、無益な不幸は大幅に減ることだろう。
タイトルにサイト名を入れることで不幸な人がゼロになるとは全く思っていないが、大した手間でもない割には効果が非常に大きいと思うので是非入れるべきだと思う。
「閲覧者を騙して喜ぶ、世間を騒がせるというような悪意も持っておりません」と案内ページに記載していて、今もその気持ちが変わっていないのであれば、タイトルにサイト名を載せるぐらい簡単にできるだろう。
せっかくウソをつくのなら、人を騙すウソではなく、人を楽しませるウソ、人を勇気づけるウソをつこうじゃないか。(円谷プロのエイプリルフールを支えた男の告白より)
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追記
本人からこのような反応があった
タイトルだけを見た人も自分のサイトの読者扱いなのか、自分のサイトが電子レンジ並みに知名度が高いと思ってるのか、ツッコミどころはいろいろあるが、その例えを使うなら、私の要望は「電子レンジの箱には、電子レンジと書いて欲しい」と読み替えていただければ幸いです。
「騙されて逆ギレしている」みたいな反応をされている方は上記の関連記事をぜひご一読ください。
更に追記(05月17日)
(長くなったので別記事にします。)