2024年06月28日

任天堂株主総会レポート2024


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2013年に初参加し、コロナ禍で2年ほど欠席を挟んで今回で10回目の参加となる任天堂株主総会に今年も行ってきた。

先日、株主総会に関する記事執筆の依頼があり、株主総会に参加する意義と楽しみ方について書いたので、合わせて読んでいただけるとありがたい。
任天堂が好き過ぎて株を購入。「任天堂株主総会レポート」中の人が語る、“推し”企業に投資する魅力 | イーデス

さて、今年2024年の株主総会だが、Nintendo Live 2024 TOKYOが脅迫により中止に追い込まれたことが影響したのか、今年から手荷物検査が行われると告知があった。博多駅からの始発で開会時間には間に合うのだけど、手荷物検査や天候不良で余計な時間が取られそうだと判断し、余裕を持てるようにホテルを予約して前日入りすることにした。

かつて任天堂の株価はWii全盛期に7万円台をつけ、その後の業績不振によりもっとも低いときは1万円を切っていた。それが、ついに昨年末に上場来高値を突破した(途中で10分割しているので7,000円台)。その後も安定して高値をつけ8000円以上で安定していて、任天堂は今までで一番景気がいい状態と言える。

京都市勧業館「みやこめっせ」の入口。白い看板があり、『任天堂株式会社 第84期定時株主総会』と書かれている

株主総会当日の状況

例年通り会場近くでは若い社員が会場までの案内を持って立っていた。雨は降っていないもののかなり蒸し暑く、仕事とはいえ大変そうだ。

開場時間30分前の8時30分に到着し、行列に並ぶ。100番目ぐらいだろうか。9時までに200人ぐらいが並んでいたと思う。

手荷物検査はスムーズでいつものようにお茶を頂いて着席。みんな遠慮しているのか、最前列にもそれなりに空席が目立ったので、宮本茂さんや高橋伸也さんがよく見える席を確保できた。

10時の開会の時間には前方や中央の席はほぼ埋まった状態。後方は空きが目立つ。
会場内には複数の警備員が会場内に配置されていた。去年は警備員はいなかった気がする。

10時になり役員たちが入場してくる。最高齢の宮本茂さんはお元気そうで、去年よりも若く見えるほど。
古川社長の挨拶で株主総会がスタート。

いつも通り、昨年度の業績の成果の報告が始まる。
詳しくは任天堂のIRにあるのでざっくり書くと、さすがにSwitch発売から年数が経ってるので前年度比でハードもソフトも売上減したものの、マリオ映画の収益が入ってきてIP関連収益は大幅増との事。
次世代機に関しては以前アナウンスした通り今期中に発表予定と改めて告知された。

決議事項と役員紹介も終わり、ここからがお楽しみの質疑応答時間だ。

今年は18人の質問者が指名された。全てを書くと相当長くなるので気になる質問とその回答の要旨のみを記載する。今回は質問の質が高く、あまり省く部分がなくなったため結構な分量になった。

株主総会の質疑応答の議事録は任天堂側からも公表されるが、任天堂が必要と判断しなかった部分が要約されるので、株主総会参加者目線でのまとめも大事と考えている。あくまで会社と株主の立場は対等で、株主総会に参加できなかった株主のためにも、公式と異なる視点の議事録は必要だろう。

例によって聞き取りミスやメモの漏れなどで細かい間違いが含まれる可能性があることはご容赦頂きたい。

視覚障害者へのサポート

質問:目が見えない人向けのゲームがたくさん出てくると嬉しい。

他のゲーム会社では意識されているが任天堂にはその傾向が見られない。取り組みがあるなら説明してほしい。
「ニンテンドースイッチ 視覚障害者」で検索しても任天堂のサイトがヒットしない。
3億人弱の視覚障害者がいると言われている。対応すれば新規需要にもつながると思います。

古川俊太郎(以下古川):具体的な内容はこの場で回答することはできないが、当社のゲームを世界中の多くの方々に遊んでほしいと思っている。
様々な取り組みを進めることが重要で、視覚障害者に限らず、多くの方に遊んでもらえるようにしたい。

株主総会に参加するにあたって私自身も質問を毎回用意しており、過去9回の参加で4回指名されている。今回も質問を用意していて、指名されるべく挙手をしていたのだが、1人目でこの質問が出てからは挙手をやめた。なぜなら、ほぼ同じ質問を用意していたからだ。

なので、この回答は私の質問に対する回答とも言える。

この質問に対する否定的な意見を複数見かけて、色々と思うところがあり、これはちゃんと説明が必要だなと考えているが内容をまとめるのに時間がかかりそうなので今回の株主総会レポートでは割愛して後日改めて別記事にする予定。

次世代ハードの転売対策

質問:新ハードの転売対策について聞きたい。

昨年は転売対策について十分な生産量を用意すると話をしていたが、それ以外の対策があれば聞きたい。

古川:先に現在の生産状況について説明したい。
半導体部品の不足に直面し、思うように生産できない状況があった。現在は解消されており、今後の見通しに不透明な部分があるが、現時点では大きな影響はないと考えている。
需要を満たせるようにしっかりと数を生産するのが重要なのは昨年の回答と同じ。

それ以外の対策については、法律の許す範囲、そして地域によっての違いもあるができる限りのことをしたい。

生産数について楽観的とも思えるぐらい自信がある様子だが、早いうちに製造を始めるのか、価格が高いなどの理由で初期需要が少ないと見込んでいるのだろうか。
いずれにせよ、入手が容易であればありがたい。

生産数を増やす以外の対策も考えてはいるようなので期待したい。

AIとの向き合い方

質問:アップルが次世代iPhoneにAIを搭載することを発表した。 任天堂のAIについての取り組みを聞きたい

古川:ゲーム業界においては敵の動きなどでAIに近い技術が使われてきた。生成AIでクリエイティブなこともできるが、知的財産権に関する問題も有している。

柔軟な姿勢で対応しつつも、最も大切なのは最適なゲーム体験を作ることとしている。

AIはIT業界で最もホットな話題だけあって、質問が出るだろうなと思っていたら案の定出てきた。
任天堂は最先端技術に割と慎重な部分があるので慎重な態度を取っているのも予想通りだ。
インディーゲームで生成AIが描いた美少女イラストを使った雑なSwitchゲームがあるのはどう思ってるんだろ。

新規IPの創造

質問:ソフトのラインナップについて、マリオ、ゼルダなどのソフトは充実している。新しいIPを作り出す予定はないか。

古川:開発の方から話をさせてもらうが、まずは現状のラインアップの紹介をしたいのでこちらの映像を見てほしい

(ニンテンドーダイレクトで流れた新作タイトルのダイジェスト映像が紹介される)

高橋伸也(以下高橋):新しい遊びを体験できるソフトをいくつも出している。今後も色々考えている。いままでのキャラクターを楽しんでいるお客様、新しいものを楽しみたいお客様両方について開発は考えている。

新規IPの話をしているのに、リメイクや続編・既存IPの派生タイトルばかりのラインナップビデオを流すのもどうかと思うが、映像をが流れている間、高橋さんがとてもいい笑顔をしていて、特にメトロイドプライム4のところで嬉しそうにしていた(ように見えた)。出るまで長かったからね…。

回答としてはいつもの通り、頑張ってます&頑張ります。
株主総会の場で未公開の新情報を出すわけにはいかないので、未発表の情報が関わる部分は基本的にこの回答ばかりになる。

決算予想の正確性

質問:業績予想について聞きたい

前期決算はとても素晴らしかったが、翌日の株価は5%以上、大きく下がった。
それは来期の予想があまり良くなかったからだが、後継機の数字が入っていないためと説明があった。

以前、宮本さんが「常にホームランを狙っている」と言っていたが、ホームランの有無で業績が大きく変わるわけだし、予想があまり意味ないのでは。

古川:業績予想は注目を集めるものだと認識している。
IR活動の方針としては公平に適宜発表している。
我々のビジネスは驚いてもらうことが大切なので、どのような商品を発売するのかを公表すると驚きを損なう。

以前は中間期予想も出していたが、ソフトの発売のタイミングがずれるだけでも大きく変わるので取りやめた。
これからも寄り良い形で株主とコミュニケーションを取りたい。

中間予想を出すのを取りやめていたことに気づいていなかった。だめな株主だ。

そもそも四半期ごとの決算発表と任天堂のビジネスのサイクルが噛み合ってなくて、結果としてIRが不親切になるのはしょうがないかと思うし、大体の株主も同じように思ってるだろう。
要するに、任天堂の業績予想を真に受けちゃだめ。

任天堂が向かう道

質問:これから任天堂はどの道を進むのか、宮本氏に聞きたい。

海外のテーマパークやNVIDIAとの関係も聞きたい。

塩田興:NVIDIAとはSwitchのチップ開発やゲームを動かすためのシステムソフトを一緒に作り上げた。システムソフトも作ったら終わりではなく、Switchのビジネスは続いているので関係は続いている。

宮本茂(以下宮本):(“どの道を進むのか”とは)壮大な話…。どこからお答えしようか(苦笑い)

宇治に歴代の商品を並べるニンテンドーミュージアムを作っている。
その様子を見て、ひと節目を終えたのかなと思っている。
(任天堂は)かるたから始まり、いろんなビジネスを手掛け、エンターテインメントに徹することにした。そしてゲームビジネスに出会った。

ゲーム機を世界中の人に届けるには限界がある。
それでモバイルやテーマパーク、映画でゲーム機を持たない人たちにも任天堂IPを届ける試みを10年ぐらい前から取り組んできた。USJにはドンキーコングのエリアができる。フロリダ、シンガポールにもテーマパークを整備している。映像にも取り組んでいる。

任天堂を選んでもらう理由を作るんだと社員に言っている。
我々は生活必需品を作っているわけではないので新しい付加価値を作らなければいけない。
常にホームランを狙っていって商品を出し続けて、それで将来も任天堂が家族にとって必要なブランドになっていく。それを今後も続けていく。

(会場から拍手)

近くの席に座ってた高齢の男性からの質問。
しっかり聞き取れなかったが、宮本さんと同世代的なことを言ってた気がする。
長期の株主っぽい貫禄があった。

エンターテインメントビジネスのすべてが詰まってるような宮本さんの回答は、淀みがなくて、きっと同じような話を何度も何度も社内で若い人たちに語っているんだろうなと感じた。

IPの保護

質問:マリオ、ゼルダ、ポケモンなどの魅力的なIPがあるが、IPの権利を侵害する製品が他社から出ている。

そういったことに対する考えを聞きたい。

古川:当社の知財を侵害したものに対しては適切な対応を取っている。
ゲームを通じてキャラクターへの愛着を高めていた。
キャラクターの模倣だけではなく、ゲームの中での体験が大事。

パルワールドを念頭に置いたのだろうなと感じられた質問。

キャラクターのガワだけコピーしても、ゲーム体験と密接に関わる”魅力”まではコピーできないだろと言わんばかりの強い回答だった。

クリエイターの高齢化

質問:クリエイターの高齢化が進んでいる。

これからもゲームを作ってもらいたいが、体も大事にしてほしい。
今後も宮本さんが中心になってゲームを作り続けるのか聞きたい。

宮本:お気遣いありがとうございます。
さすがに、この中で最年長になって焦りもある。
会社では快適に仕事をしている。ゲームの開発については相談に応じたりすることもあり、全く見ていないわけではないが、実務をすることなく若い世代に作ってもらっていて、順調に引き継ぎできている。
ただ、引き継いだ先も年齢が上がってきているのでもっと若い人にも引き継ぎたい。

ピクミンブルームはディレクターとしてしっかり関わっているのでよろしくお願いします。

"どの道を進むのか"の回答とあわせて見ると、宮本さんはゲームクリエイターとして"終活"しているなと感じた。
宮本さんが、これまでゲーム開発に向き合って作り上げた思考を若い人に伝えていこうとしている。
あと何回株主総会で宮本さんの顔を見ることができるだろうか。

マリオ映画の新作が2026年に公開されるが、そのあたりが節目になるんじゃないかなと考えている。

ネット上でのトラブル

質問:(それなりに長い内容だったがざっくり要約)SNSで、任天堂IPのコスプレイヤーが未成年者に性的な加害を行ったという話を聞く。

悪質なインフルエンサーやまとめサイトの話もある。
人の笑顔を奪う事例を減らすためにどういった発信をしていくか聞きたい。

古川:娯楽を通じて笑顔にするという方針の中で個別の事案についてここでコメントはしないが、方針の障害になるような事例には適切な対処を取っていく。
いかなる差別やハラスメントを認めず、不快な思いをさせない取り組みに今後も尽力していく。

軽く流すような回答。
役員の名前を複数あげて個別回答を求めていたが、古川社長が一人で回答しており、ほぼスルーと言っていい。

まとめサイト問題はともかく、個人間のトラブルはあくまで当人どうしの話であって、第三者があれこれ騒ぐのも、任天堂を巻き込むのもおかしいと思う。
一般人のトラブルに任天堂がわざわざ口出ししたらそっちのほうが大問題だろう。

サントラの扱い

質問:サントラについて。

以前、クラブニンテンドーでサントラCDの配布があった。
プレイしていないゲームの音楽もあり、新しくゲームに触れる窓口にもなったのかなと考えている。
ゲーム資産の活かし方としてサントラのサブスクリプションの音楽配信サービスや、自身での配信を考えていないか。

古川:ゲーム音楽に愛着を持っていただいていることは認識していて、コンサートなども開催している。
音楽もIPの拡大に必要なものと考えているので、喜んでもらえるように活用していきたい。

サントラCDが少数ロットで発売されて再販されなくて中古市場でとんでもない金額になる事例は割とよく見るし、せっかくの資産が活用できていない感じはする。
この10年でキャラIPの活用を促進するようになって非常にうまくいっているが、その中に音楽の活用も含めていれば、もっとマシな状態になっていたんじゃないだろうか。

まとめ

今年も一人ぐらいは「次世代Switchはいつ出るんですか?」「お答えできません」みたいな無駄なやり取りで質問枠を消費したり、演説を始めてしまう人が現れるかと思っていたが、全体的に質問のクオリティが高く、有意義な質疑応答だったと思う。

「任天堂に関わるすべての人を笑顔にする」が基本方針で、古川社長はそれに従った回答をしていた。
大変素晴らしいことだと思う。
だが、視覚障害者へのサポートの質問で3億人弱を取りこぼしていることを指摘された。

重要だと考えているなら、なぜ遅れを取っているのか。
任天堂が言う「すべての人」に障害者はどれほど含まれているのだろうか?そこだけがほんのちょっとだけ心残りとなった株主総会だった。

前述の通り、この質問と回答および私の考えについては後日改めて記事にまとめる予定だ。

おまけ

例年通り、株主総会友達とランチしたり、ニンテンドーキョウトに行ったり、翌日にUSJに行ったりした。

3人で食事をしているカフェのテーブル 株主総会の入場証が3枚置かれている
任天堂のグッズが売られている「ニンテンドーキョウト」の建物の地下にあるマリオ像 緑色の土管から顔を出している
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン内にある、スーパー・ニンテンドー・ワールドの入口看板

こちらはドンキーコングエリアへの道を塞ぐ壁。今しか見られない貴重品。

スーパー・ニンテンドー・ワールド内に建築中のドンキーコングエリアへの立ち入りをできなくしている壁


あと、総会後の夜に(株主ではない)友人と牛タンを食いながら「東ゆうは本性を表したんじゃない、壊れてたんだ」「ガールズバンドクライを映画館で見せろ」「西浩子はがんばってる」みたいな話を延々としていました。楽しかったです。

牛タンが乗った皿 手前に「劇場総集編ぼっちざろっくRe:」の入場特典の後藤ひとりの小さな人形が置かれている

過去記事

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