任天堂株主総会レポート 2025
例年、任天堂の株主総会当日は天気が悪いことが多いのだが、今年の株主総会当日は晴れて30度を超える陽気だった。
天気だけではなく、任天堂の株価もアツい。前日26日に上場来高値を付け、当日にも最高値を更新した。そろそろ分割を再度行うことも視野に入れなければいけない株価になっている。
ご存知のように任天堂は株価だけでなく、新型ゲーム機「NINTENDO Switch2」を発売したばかりで非常にホットな状態といえる。
ただし、株価は好調です、新型ゲーム機を出しました、とても売れています、株主も大喜びですね…と、両手を上げて喜べる状況ではなく、Switch2の需要に対して供給が圧倒的に足りていない状態である。
特に国内の需給状態は非常に悪く、発売後1ヶ月近く経過しても入手できていない株主も多くいることが予想され、質疑応答が荒れないかなと不安を抱えながら参加した。
質疑応答までの様子
前日に京都入りし、開場時間前に総会の会場の「みやこめっせ」に向かい、8時15分頃到着して、待機列に並ぶ。
去年はロビーの壁際に並ばされていたが、今年は1階の展示スペース内で整列させられた。
空調が効いていたので快適に待つことができたが、待機列を入れるためのスペースとしてはあまりにも広く、わざわざこのために会場を押さえたとは思えない。みやこめっせ側が好意で開放してくれたのか、任天堂が何らかのイベントを予定していて確保していたのかはわからない。
※閉会後に撮影。会場内は撮影禁止だが、閉会後には容認されているようで多くの株主が撮影していた。
9時になって3階の会場に入り最前列中央付近を確保。
10時の開始時間まで続々と株主たちが入場していき、かなりの席数がある会場が隅っこの席を除きほぼ埋まっていた。
明らかに去年より参加者が多く、2000人近く集まっているかもしれない。
10時直前に役員のみなさんが入場する。
今まで総会に参加していなかった社外取締役のクリス・メレダンドリ氏(映画会社イルミネーションのCEO)も今回は出席している。
古川社長の挨拶で株主総会が始まり、議案の説明や事業報告などが行われる。
その後、株主との対話の時間、質疑応答が行われた。
毎年お決まりの注意書きだが聞き取りミスやメモの漏れなどで細かい間違いが含まれる可能性があることはご容赦頂きたい。また、正式な議事録は後日任天堂のサイト内に掲載されるのでそちらを参考にしてほしい。
全部で17名の指名があった。すべてを紹介すると長くなるのでかいつまんで要点を記載する。
映画事業の展望について
質問:マリオ映画の続編が計画されていて、ゼルダの伝説の映画も制作されていると聞いている。
今後の予定や他のIPの作品の予定がないか聞きたい。古川俊太郎(以下、古川):一昨年ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーを公開して、世界中の皆さんから評価してもらえた。
2026年の4月にスーパーマリオの映画の公開を予定しており、2027年5月にゼルダの伝説の映画を公開することを発表している。
中核ビジネスを活かすための事業の一環として映画にも取り組んでいる。単にライセンスを供与するのではなく、当社が能動的に制作に参加して投資も行いクオリティを維持できるようなスキームにしている。
他のIPについては現時点ではお話することはできないが、様々な取り組みをしている。
IPの活用ということでライセンスを他社に投げっぱなしにするのではなく、積極的に制作に関与してクオリティコントロールまで行うという話。
ライセンスを貸し出して駄作を作られたらIPに傷がつくし、映画が高クオリティで提供されればファンが増え、ゲームビジネスにも良い影響が出てくるということだろう。
音楽コンテンツの活用
質問:ニンテンドーミュージックアプリのお陰で任天堂の音楽に触れる機会が増えた。
オーケストラコンサートなどの予定はないか?古川:ニンテンドーミュージックは任天堂IPに触れる機会を増やす一環として提供している。
このアプリで過去のゲーム体験を思い出していただき、再びゲームに触れる機会になってほしい。
コンサートやライブなどの今後の展開は検討していきたい。
いつもの「お話できることはない」に近いほぼゼロ回答に聞こえる。
ただ、他の質疑応答の中身と照らし合わせて考えると割と音楽イベント開催の可能性はあるんじゃないかと思える。
「任天堂IPに触れる人口を増やす」というのは全く任天堂コンテンツに関心がなかった人たちに向けたものだけではなく、かつて任天堂が好きだった人たちに再び戻ってきてもらう施策も含まれるだろう。
そういう人たちに「昔好きだったあのゲームのコンサートがあるよ」と呼びかけるのは割とアリなんじゃないだろうか。
Switch2の需給状態について
質問:Switch2が今月発売されて、国内で需要を満たしきれていない。
その要因は、生産台数不足なのか?需要予測が不足していたのか?
今後、新製品を出す際に改善点はあるか?古川:多くの国で供給を超える需要があり、不便をおかけしている。
株主や、ご家族、ご友人の中にも入手できていない方がいると存じている。
マイニンテンドーストアの抽選応募数が想定を上回ったことに関してX上で私の名前で発表し、お詫びした。
その後4回の抽選販売でも当選されなかった方もいる。
第5回の抽選販売の発表を行った。
一般の量販店では抽選販売から始まったが、徐々に店頭販売も増えている。
当社としては生産体制の供給に努めて少しでも多くのSwitch2がお届けできるように努めていく。
この初動需要について、予想を大きく上回ったことでご迷惑をおかけしているが、引き続き生産体制の強化と出荷を続けていく。
まあ、当然突っ込まれるよねという内容。
この生産体制と今後の出荷予測については前回の記事でまとめているのでご参照いただきたい。
任天堂の決算情報と初動売上から、Switch2が普通に買える時期を予測する | N-Styles
ファミ通調べではあるが発売翌週・翌々週週販15万程度を維持しているので、おおむね私の予想の範囲内での動きになっている。今のペースだとおそらく第5回で初期申込みの220万人にはほぼ行き届き、一般の小売店での混乱も1年以内に収まるのではないだろうか。
聴覚障害者への対応
任天堂スタッフ:(代読します)iPadの貸出に感謝いたします。
前回の株主総会で視覚障害についての質問に対し、取り組んでいきたいと回答があった。
聴覚障害者当事者として質問したい。
Switch2ダイレクトは当初字幕がなく、後で追加された。
今後の取組みについて聞きたい。古川:Switch2では画面表示の調整、テキストの音声化、ボタンのカスタマイズなどのアクセシビリティの機能を提供している。詳しくは公式サイトで見てほしい。
将来の製品についてもアクセシビリティの拡大のために努力している。
聴覚障害者の方による質問。
質問の文章を用意していて、それを任天堂スタッフが代読したようだ。
冒頭で触れたiPadの貸出は文字起こし等の機能を使うために任天堂側が開場の受付で提供したものだろう。
質問者の近くの席の方からいただいた情報によると、手を上げるたびにスタッフが駆け寄って補助していたとのこと。
任天堂とアクセシビリティについては前回の株主総会記事とその後の記事で詳しく触れているのでご一読いただきたい。
任天堂株主総会レポート2024 | N-Styles
任天堂とアクセシビリティ | N-Styles
様々な特性を持つ方々がゲームに触れる機会を増やすためのアクセシビリティ機能は、任天堂はあまり注力しておらず、他社から大きく遅れを取っており、改善が求められていた。
古川社長の言う通り、Switch2では大きく改善されたものの、他社と比べてようやく同等レベルに到達した印象を受ける。
ただ、今後も取り組みを続けていくこと、株主総会開場でも障害者へのサポートがあったことは良いニュースだと思う。
新取締役の紹介
質問:社外取締役の八谷さんなど取締役が増えている。
新たな取締役について、紹介してほしい。古川:取締役の推薦理由については招集通知にあるのでそちらを見てほしい。
Chris Meledandri氏はアメリカ在住なのでこれまで株主総会に来ていなかったが今回はスケジュールの都合がつき、初めて総会に参加した。
せっかくなので、映画ビジネスで関わりのある宮本から話をしたあとChris氏からもコメントを。宮本茂:なにからお話しようか迷っています。
新任の八谷さんは以前から付き合いがある。
取締役の多様性について考えていた。ゲームについて研究されているが、アーティストとしていろいろな活動をしている。ネットで調べたら色々出てくると思う。
すごい…とんでもない人です。映画については発表していること以外にはお話できない。マリオの次の映画は完成して面白いだろうという目処が立ったことで発表した。今後も映画の公開日を先に決めて、スケジュールを合わせてなんとかできましたというのではなく、ユーザの目線に立って満足できるというところで出したい。
では、クリスさんお願いします。Chris Meledandri:Thank you MIYAMOTO SAN.
(以下、通訳)
私は、映画やメディアの分野に40年いる。それはストーリーが好きだから。
2007年にイルミネーションを起業した。ミニオンの会社だ。
20年ほど前から日本に定期的に来て、日本の企業と協業できないか考えていた。
10年前に宮本さん、別府さんと会った。そして、マリオ映画の制作についての対話が始まった。
次回作についても鋭意制作している。宮本さん、任天堂チームとともに密にやり取りをして、映画製作は佳境に入っている。
コアファンに喜んでもらえる作品になればいいなと思っている。
しかし、同時に任天堂の世界観に触れたことのない新しいお客様にも楽しんでもらえる作品になればいいなとも思っている。
最後に、世界中の多くの企業を見てきたが、任天堂は世界に類を見ないユニークなもので一緒に仕事できることを光栄に思っている。
(会場から拍手)
最初の質疑応答でも出てきた、映画製作に積極的に関与していくという話を宮本氏も語っている。
映像分野においても納得の行くクオリティに達しなければリリースしないという方針は、ゲーム制作と同じだ。
クリス氏はいままで株主総会に来られていなかったため、今回始めての挨拶となる。
任天堂と共に仕事をすることを楽しんでいるように感じた。
ファン層の拡大を掲げているのでマリオに興味のない方をメインの客層に据えているかと思ったが、コアファンが最優先で、それ以外の人も楽しめるように…という方針なのはちょっと意外。
たしかに、マリオ映画はマリオ作品の細かいネタを拾っていて、マニアックな要素が多かったな。
子供には高くないか?
質問:我々の世代だと安価なゲームウォッチなどに触れて成長してきた。
Switch2はそれなりの値段になって、小さいお子様が触れる機会が減ってしまっているのでは?
IPの活用という面でそれは十分なのか?低価格の商品展開は考えていないか?古川:過去に発売していた商品と比べるとSwitch2は高くなったと考えるお客様も増えている。
重要なのはお客様に十分な体験をしてもらうこと。そのためにSwich2には様々な機能を盛り込んだ。小さなお子様については、ゲーム機以外でもさまざまな取り組みをしていて、キャラクターに触れていただけるようにしている。
それをきっかけとして最終的にはゲーム専用機で遊んでほしい。
そのときに価格がどれだけのハードルになるかは注目している。
世界的な物価高というかインフレが進んでいることや、円安問題、それに加えて国内限定版の価格もあってSwich2の値段は難しい話題。
これから何年も戦うハードとして必要な性能を確保するには必要な機能を盛り込めばそれなりの値段になるし、それを受け入れて購入を希望する人が多数いるのが現状だ。
それでも、子供たちに気軽に任天堂のゲーム機に触れるようにしたい気持ちもよく分かる。
iPhoneが旧世代機を廉価版として残すように、廉価版のSwitch1を発売するのもありかなーと思う。
ソフト資産やセーブデータはSwitch2に引き継げるし、任天堂ハードに安価で引き込めるのは悪くないんじゃないかな。
ゲームを買わずに楽しんでいるという面で批判されがちなゲーム実況動画のようなものも若年層が高いお金を払わずにコンテンツに触れる機会を増やすという点においてはありかと思う。
独創の伝承
質問:ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドやティアーズオブザキングダムのような自由な仕様の中であれほど完成度の高いゲームを作り上げたのは、現場で率直に意見を言えるような風通しのいい環境があったのではないかと思っている。
任天堂として、そういった自由な発想が生まれる環境を整えるためにどのようなことをしているか教えてほしい。古川:任天堂の基本的な考えとして、人材を最も重要な経営資源と考えている。
様々な研修をしているし、個々のキャリアに寄り添うことで能力を発揮し、それぞれが活躍できる職場であるようにしている。
あとは高橋(ソフト開発責任者)、塩田(ハード開発責任者)に。高橋伸也:自由な発想を出し合う場が開かれている。
職種にこだわらず意見を言えるようにしていて、特に若い人たちにどうやってもらうかを考えている。
ハードチームと組んでハード・ソフト関係なく意見を出し合えるようにしている。塩田興:任天堂の人材育成は、開発を通じて育成していくのが基本。
Swich2の開発はいい経験になった。
Switchの開発に関わっていない若いスタッフに、どういうことをこだわって作るのか、どこがお客様が気にするポイントなのか、開発を通じて伝えていった。ハードで対応する部分を、システムソフトで対応したり、チームの垣根を超えた開発をすることが任天堂の強みとなっている。
「人材を最も重要な経営資源と考えている」という部分はとてもいい。
しっかりと研修をして、福利厚生を充実させて、満足できる給与を与えてのびのびとゲームを作れる環境を整えてほしい。
塩田さんがコメントされたソフトとハードの垣根を超えて協力してSwitch2を作り上げたという話は、Switch2のひみつ展をプレイしていたらよく分かる。
ソフト面、ハード面での工夫の塊で、あれこれ苦労しながら製品を完成させた事がよく伝わる。
たぶん「これだけ頑張ったんだから、買った人たちにもどこを工夫したかわかってほしいよね」みたいな話になってローンチタイトルにしちゃったんだろうな。
ひみつ展は本当に良いソフトだ。
Switch2発売時の記事でひみつ展のレビューも少し書いているので参考にしてほしい。
Switch2発売に寄せて:信頼の延長線上にある静かな革命 | N-Styles
質疑応答を終えて
今年は長文朗読する演説系株主は指名されず、みなさん簡潔にまとめていたのでおそらく議事録で質問内容が省略されることは少ないだろう。
冒頭で記載したように、好調な業績で株価も上場来高値を更新する中での総会だったため任天堂に対して強い要求や指摘をする株主はおらず、Switch2の供給不足についてお詫びしていた以外は穏やかな雰囲気だった。
今回は質疑応答の内容をメモ(とTwitterに垂れ流し)しつつ、挙手を上げ続けたが指名されなかった。
ニンテンドーフクオカの年内開店に関連して、出店都市に福岡市を選んだ理由と今後のオフィシャルストアなどの実店舗の展開の方針について聞くつもりだった。
株主総会の話題に対し「なんで◯◯について聞かないのか?」という意見を多く見かける。
1000人を超える参加者がいる会場で、それぞれ異なる質問を用意した百人以上が手を挙げ、十数名しか指名されない状況で、自分と同じ質問を用意した人が指名されるのはSwitch2本体抽選を当てるより難しいだろう。質問したいことがある人は、自分で株を買って会場に来て手を上げてほしい。何年かがんばればそれなりに当てられる。がんばろう。
株主総会後のお話
株主総会後は、私の総会記事を見て昨年任天堂株を購入し今回初めて株主総会に参加された方と挨拶をしたり、毎年総会後に二次会を開いている株主友達たちとお昼を食べたりした。
さて、2025年6月27日は何の日か。
そう、任天堂株主総会の開催日であり、映画『KING OF PRISM(略:キンプリ)』シリーズ最新作『KING OF PRISM-Your Endless Call-み~んなきらめけ!プリズム☆ツアーズ(略:キンツア)』の公開初日である。
完全に被った株主総会を優先し、泣く泣く初回上映を逃したものの総会二次会を終えた私は一旦ホテルに戻り装備(ペンライト、Tシャツなど)を整えたあと京都の映画館に向かった。
キンプリ友達たちと合流して、キンツア応援上映に挑み、予告なしでぶち込まれたGet Wildのイントロに「嘘でしょ」と思わず声が漏れ、泣きながらペンライトを振り続けた。
2回連続で鑑賞するつもりが、60分間に膨大な密度の情報量を流し込まれて精神的な疲労がピークに達し抜け殻のような状態で連続鑑賞を諦め、キンツア感想会(夕食)を開催して膨大な情報を整理して落ち着きを取り戻すことができた。あぶなかった。
本来は総会後速やかに本記事を掲載したいと考えているが、偶然は重なるもので翌日朝のニンテンドーミュージアムのチケットを手に入れてしまっていたので記事を書いている場合ではなかった。異様に任天堂に詳しい友人と恐ろしく濃い任天堂トークをしながら朝から夕方まで隅々まで堪能していたので帰りの新幹線でクソデカNINTENDO64コントローラクッションといっしょに福岡に向かいながらこの記事を書いている。
ちなみに、ニンテンドーミュージアムに来るのは3回目だ。
1,2回目についてはこちらの記事で書いている。
ニンテンドーミュージアムと丸福樓に行ってきた | N-Styles
京都でお会いした皆さん、ありがとうございました。とても楽しかったです。
福岡に戻ったら、ポケモンセンターフクオカ(こちらも6月27日リニューアルオープン)とガールズバンドクライ展(これも6月27日が初日)とキンツア2回目を堪能します。
任天堂株主総会レポート2024 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2023 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2022 | N-Styles
2020-2021はコロナ禍のため参加自粛
任天堂株主総会レポート2019 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2018 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2017 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2016 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2015 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2014 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2013 | N-Styles
2025年06月13日:任天堂の決算情報と初動売上から、Switch2が普通に買える時期を予測する
最新記事
2025年06月28日:任天堂株主総会レポート 2025
2025年06月13日:任天堂の決算情報と初動売上から、Switch2が普通に買える時期を予測する
2025年06月07日:Switch2発売に寄せて:信頼の延長線上にある静かな革命
2025年01月27日:指宿に行って砂風呂に入ってイーブイを探した
2025年01月17日:Switch2予告映像を細かすぎる部分まで読み取ってみた
2025年01月15日:軽い気持ちで買ってみたルービックキューブが深い沼だった
2024年12月19日:ニンテンドーミュージアムと丸福樓に行ってきた
2024年07月10日:任天堂とアクセシビリティ
2024年06月28日:任天堂株主総会レポート2024
2024年06月16日:10年ぶりにテレビ周りを刷新した話