任天堂は以前からコンプガチャを否定していた
ゴールデンウィーク後半から、消費者庁がソーシャルゲームの「コンプガチャ」を規制するという動きが報道された。射幸心を強く煽り、1つのアイテムを手に入れるために数万円の出費を強いられることも珍しくないという。
コンプガチャについての説明は難しくなるので、この記事では説明を省かせていただくが、こちらの記事【漫画つき】コンプガチャだけじゃない。ケータイSNSゲーム課金の仕組み解説 - しっぽのブログをご覧いただくとわかりやすいかと思う。
コンプガチャの問題点については置いといて、今回は、任天堂の立ち位置を再確認したい。
※記事タイトルはコンプガチャ否定としていますが、正確にいうと「任天堂はコンプガチャを含むアイテム課金を否定していた」です。
先日からニンテンドー3DSでもオンライン課金に対応し、いくつかのソフトで実際に追加データの配信サービスが行われている。
大雑把な図で、抜けも多いが、任天堂が現在行なっているのは「追加データ配信」と呼ばれるタイプの課金システムで、元々のゲームソフトに含まれない追加データをダウンロードすることの対価として支払いを行うタイプ。ユーザーはお金を払って、追加マップや追加楽曲をダウンロードする。
それに対し、アイテム課金は主にゲーム内のパラメータを操作することの対価として支払いを行うタイプ。わかりやすく言えば、ドラクエでゴールドを使ってはがねのつるぎを買ったり、FFでギルを使ってエリクサーを買ったりする行為を日本円で行うもの。アイテムの所持数を+1に変更するための処理にお金を支払うことになる。
コンプガチャはそのアイテム課金の中の一種なのだが、任天堂(岩田社長)は以前からアイテム課金を否定し続けている。正確に言うと、アイテム課金自体は否定していないが、任天堂がアイテム課金を行うことはないと明言している。
任天堂のIR情報にある過去の発表内容や質疑応答で該当箇所を抜き出してみた。
Q12 アイテム課金のビジネスについて。ソフトメーカーの中にはアイテム課金のビジネスにリソースをシフトしている会社も出てきており、ソフトメーカーにとって課金を自由にできるプラットフォームの魅力が高まっていると思うが、それに対してどう考えているか。(略)A12 岩田:アイテム課金そのものを、私は全然否定しておりません。以前に私が申し上げたことがあるのは、「ゲームを無料で始めていいですよ、というやり方でアイテム課金をするというビジネス構造は、私たちがやろうとしているゲームビジネスと価値のアピールの仕方が全く違いますので、その枠組みでは自分たちのコンテンツの持つプレミアムな価値というものが傷つくのではないか」ということです。
「アイテム課金に関して、任天堂は将来どうするのか」とか、「任天堂のプラットフォームはアイテム課金への備えをどうするのか」ということについてですが、3DSでもWii Uでも、いわゆる追加コンテンツ、あるいはアイテム課金という形で課金ができるような仕組みを現在整備中ですので、3DSでは年内にそういうことが可能になる見込みです。これは、プラットフォームとして、「ソフトの作り手の方に柔軟な選択肢を用意すること」を意味しますが、「私たち任天堂がソフトの作り手としてのポリシーをどうするのか」という問題とは別です。
では「ソフト作り手としての任天堂はどう考えているのか」についてですが、これについては一度、良いチャンスなので、お話ししておこうと思います。一般的には、「任天堂はアイテム課金に否定的である」、すなわち「任天堂は追加コンテンツやアイテム課金でお金をとるということには全く興味を持っていないのだ」と認識されているかもしれません。このことは、宮本ともずいぶん話をしていることなのですが、例えば「何かのゲームを全部遊び終わったが、もっと遊びたいので、追加ステージがあったらいいな」ということがあった時に、私たちが追加ステージの制作にしかるべき労力を注ぎ込んで、それを後から配信することでそのゲームの寿命が延びたり、話題が増えたり、売上が伸びたりするとしましょう。そうしたら、「そういうものをお客様と折り合いのつく価格で追加コンテンツとして買っていただいても良いのではないか」という話をしています。例えば、将来、任天堂の何かのゲームの追加ステージとして、「これを遊ぶためにはあといくら払っていただけませんか」ということはあって良いのではないかということです。
一方で、「これは私たち任天堂がどうしたいのか、という考えであって、世の中の他の会社さんが正しいとか間違っているとかいうことを言いたいのではありません」という意味でぜひ誤解なく聞いていただきたいのですが、私たちの価値観では、「数字のパラメーターだけを触って、何かの鍵を開けるとか、何かがものすごく有利になるとかという形で課金する」ということは、クリエイティブの労力に対する対価ではない全然別の構造なので、それを追求すると確かに短期的に収益は上がるのかもしれないのですが、お客様と私たちの間での長期的な関係はつくれないのではないかというふうに思っていまして、こういう形での課金は、私たちのコンテンツに対してはすべきではないと、いうことも同時に話しています。
2011年7月29日(金)第1四半期決算説明会 - 質疑応答
若干古いので用語が曖昧になっているが、ここでの「アイテム課金」は追加データ配信(追加コンテンツ)も含めた課金システム全般を指している。「数字のパラメーターだけを触って、何かの鍵を開けるとか、何かがものすごく有利になるとかという形で課金する」行為は否定しているが、追加ステージの配信は肯定している。
この「数字のパラメーターだけを触って、何かの鍵を開けるとか、何かがものすごく有利になるとかという形で課金する」という説明は非常にわかりやすい。既存のパッケージゲームとソーシャルゲームの収益構造が大きく違うことをよく表している。創造物に対してお金を払うか、体験にお金を払うか、決定的な違いがある。区別が曖昧な人が多いが、この1行を読めば、パラメータ操作型のアイテム課金と、追加コンテンツを購入するタイプの課金の違いが分かるだろう。
どちらが正しいかは別として、あくまで任天堂はクリエイティブの対価として収益を上げるビジネスを行うつもりだと意思表示している。
なお、この時点ではニンテンドー3DSの追加データ配信は発表されていない(発表は2012年1月)
Q4-1 課金に関して、(中略)いわゆるソーシャルゲーム型の課金というのも当然選択肢に入ってくると思うが、結果として任天堂のハードを使うお客様はそこに接触する。それに対して、ハードウェアメーカーとしての任天堂とソフトメーカーとしての任天堂を統一する立場として、どういうスタンスで考えられているのかを教えてほしい。A4-1 岩田:(略)私たちとしては、お客様にあまりに不利益というようなことがあれば別ですけれども、お客様とソフトメーカーさんが共に納得されてやりとりされる関係ということが保たれるのであれば、比較的自由度の大きい仕組みにしようと思っています。一方で、ソフトメーカーとしての任天堂と先ほど申し上げたのは、任天堂は非常に幅の広いお客様、 小さなお子様から、あまりゲームに関する事情には詳しくご存じない方々まで、いわゆるゲーム初心者の方々、入門者の方々も含め、「安心していただけるブランドでありたい」という考えがありますので、そこについては私たち自身、ある程度厳しいレギュレーションをつくって、そこで「しっかり安心していただける、信頼していただける状況をつくりたい」と考えているからです。
Q4-2 そういった(いわゆるソーシャルゲーム型の)アイテム課金的なソフトがサードパーティーから出てくる可能性はあるということか。
A4-2 岩田: ソフトメーカーさんがそういうことをされたい、そしてソフトメーカーさんとお客様の関係の中で、それが日本で認められる商取引として通常認められるものであるのであれば、私たちは「それをやってはいけない」と申し上げるつもりはありません。ただ、これはソフトメーカーさんが決められることで、私にご質問いただいても「そうです」とはお答えしようがありません。そういうことをされたいソフトメーカーさんがいらっしゃって、「これはお客様に対して適切な関係になっています」ということであるならば、私たちはそこについてお断りするつもりはありません、ということです。
2012年1月27日(金)経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会 - 質疑応答
こちらも先程と同じスタンス。サードパーティがやりたいというなら邪魔しないけど、「それが日本で認められる商取引として通常認められるものであるのであれば」という条件をつけている。コンプガチャは当然NGだろうし、おそらく、コンプガチャ以外のガチャも射幸心を煽る行為として認めないだろう。
さらに、任天堂がリリースするソフトはもっと厳しい制限をかけるとしている。
追加コンテンツ配信対応についてお話ししますと、「ソーシャルゲームのような」という形容詞とともに報道されることが多いのですが、ソフトメーカーとしての任天堂は、どんなアイテムが出るかがわからず、いいアイテムが出るまで、何度もお金を支払って、それがいつの間にか巨額になっているというようなビジネスは志向しておりません。ソフトメーカーとしての私たち任天堂は、パッケージソフトは、それだけでもあくまで追加コンテンツなしで完結してご満足いただけるような形で販売されるのが前提であるべきだと考えており、追加コンテンツは、気に入ったソフトで、さらに突っ込んで長期間楽しんでいただくための仕組みとしてご提案した方が、みなさまにご安心いただけるのではないかと考えています。2012年1月27日(金)経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡 講演内容全文
完全にガチャ否定。
もう一度改めて整理してお伝えしますと、「追加コンテンツ販売を意識するあまり、パッケージとして未完成と受け止められるような商品を任天堂としてご提案するつもりはない」、「ネットワークを通じてコンテンツを配信することで、さらにお客様に長く、深く遊んでいただくために、追加コンテンツ販売を行っていくが、この際には、あくまでお客様に提供するクリエイティブなコンテンツを制作したことに対する対価として、お客様にお金を支払っていただけるようにする」、すなわち「構造的に射幸心を煽り、高額課金を誘発するガチャ課金型のビジネスは、仮に一時的に高い収益性が得られたとしても、お客様との関係が長続きするとは考えていないので、今後とも行うつもりはまったくない」ということです。これらのことをご理解いただければ、「『どうぶつの森』は、アイテム課金ゲームになるのではないか?」というような誤解をされることもなくなると思います。2012年4月27日(金)決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡
どうぶつの森でのアイテム課金もないとのこと。
ここまで一貫したスタンスで課金システムについて語っているのに、追加データ配信を決めた時には一部報道で、「任天堂がソーシャルゲームのようなアイテム課金型ゲームを投入予定」のような報じ方をされていて、非常に残念な感じだった。
焼畑農法のようなむしり取れるところからがっぽりとお金をかき集めるようなシステムを作れば、短期的には業績をあげられるけれども、長期的にはマイナスにしかならないことを理解している。ほぼゲームのみでビジネスをしている任天堂だからこそ、ゲームビジネス全体にマイナスイメージがつくことを非常に心配しているのだろう。
規制が入るかどうかはまだ不透明だが、自粛ムードが続くのは間違いない。
ソーシャルゲームのブームにブレーキが掛かる形となったが、これが任天堂の追い風になるのだろうか?
こちらについても任天堂が繰り返し主張していたが、もともとソーシャルゲームのブームの影響で任天堂の業績が落ちているという事実はない。任天堂が調べた統計データでは、ソーシャルゲームにお金をつぎ込んでいる人が従来型ゲームの購入額が減っているデータは出ていないという。
ということは、コンプガチャがなくなっても任天堂の業績が上がるということはなさそうだ。
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