2006年05月29日
レビュー:チーとフーのおいしいえほん
タイトル:チーとフーのおいしいえほん
開発:任天堂ゲームセミナー2005
配布期間:2006年5月25日~6月07日
価格:無料
素晴らしい!実に素晴らしい!はっきりと言ってしまえばただのインタラクティブ絵本だが、非常に大きな可能性を感じさせる天晴れな出来映えだ。とりわけ美麗なグラフィックが見られるわけでも、感動させる音楽が流れるわけでも、涙がこぼれるようなストーリがあるわけでもないが、ありふれた部品でも組み合わせとアイデア次第では立派なものができあがるのだ。
この作品は、ニンテンドーDSを十字キー側を下にして縦に持ってプレイする。左画面には絵本の本文、右画面には絵が表示される。文字は比較的大きく、漢字は使われていない。場面によっては左画面にも絵が表示される。絵柄は多少アラが見られるものの、いかにも絵本らしいタッチで、親しみが持てる。
操作は右画面をさわるだけ。戸棚や電球を触れば様々な反応が見られる。音が出たり動いたり。場面によってはマイクに向かって声を掛けたり、円を描くようにペンを滑らせたり、暗闇の中でねずみを探すシーンもある。ページをめくるのは、十字キーでも可能だが、実際の絵本と同様にページの端をつまんで持ち上げてページをめくれる。また、どのタイミングでもページを進んだり戻ったり出来る。画面上の特定の場所を触れることで条件を満たし、その後のストーリが変わることがある。この手の総当たり式アドベンチャー(と言っていいモノなのか?)は、すべての条件を満たしたかどうかが分からず、延々と調べ続けることがよくあるが、このソフトでは調べ尽くすと、ページの端が光るようになっているのでわかりやすい。
一番最初には5ページほどの操作説明があり、操作方法もごくごく簡単なので、小さな子供でも安心だ。チュートリアルが終わると物語の本編に入る。収録されている話は「チーとフーのパンケーキ」の1話のみ。登場するキャラクターは、古いアパートに住む人間のマルノさん、それに屋根裏に住む2匹のねずみのチーとフーだ。
チーとフーはマルノさんの目を盗んで食べ物を失敬している。ある日、パンケーキの材料を買ってきたマルノさんをみた2匹は、夜中にロープを伝って降りてくるが、途中でロープが切れてしまう。屋根裏に帰れなくなった2匹。そのときフーがひらめいた「パンケーキをやいてつみかさねるんだ!そしたらロープにてがとどくよ!」…こんなお話だ。絵本らしく、世界征服を目論む魔王も意外な犯人も朝起こしに来る幼なじみもない毒のないストーリだ。
どのあたりが「おいしい」かというと、食べ物を軸にお話が組み立てられている…というわけではなく、最後にレシピが出てきてパンケーキを作るようになっている。
レシピ通りの分量の小麦粉と砂糖、ふくらし粉をふるいに掛け、牛乳と卵を入れてよくかき混ぜる。できあがった生地を泡が出てくるまでフライパンで焼いて裏返し、湯気が上がるまで焼き上げると完成だ。綺麗に焼き上げることが出来ると、最後に物語の途中で拾ったメープルシロップやホイップクリーム、イチゴなどで自由にデコレーションをすることが出来る。
起動直後のメニューでは、「おはなしをよむ」の他に「レシピをみる」も用意されている。ここでは前述のパンケーキの作り方が簡単ではあるが紹介されている。ゲームの中ではなく、本物のパンケーキを作るためのレシピだ。
文章だけでは、このソフトの魅力は伝わらないと思うし、興味のない人なら触ってもなんの感情も抱けないだろう。だが、子供に遊んで貰うことを想像しながら触ってみると、これほど素晴らしいソフトはない。任天堂はDSで5歳から95歳をターゲットとしていると主張し、実際に95歳でも楽しめそうな脳を鍛える大人のDSトレーニングなどを発売してきた。では、5歳でも遊べるゲームはというと、はっきりとその年齢層をターゲットとしたソフトはなかった。
この、「チーとフーのおいしいえほん」は5歳、いや3歳でも通じるソフトだ。触ると反応する仕組みは、間違いなく子供が喜ぶし、マイクに呼びかけると反応する演出にはビックリするだろう。ゲームの分類上はアドベンチャーゲームに該当するが、フラグ立てを無視してもページをめくれるので、次にどうしていいのか分からなくなって先に進めなくなることもない。文字が読めないなら親が読み聞かせて、子供にペンで触らせればいい。ある程度上の年齢なら、ゲームで遊んだあとで実際にレシピ通りに料理を作るといいだろう。
同様のコンセプトを持ったゲームは、セガのキッズコンピュータ・ピコをプラットフォームとしていくつも発売されているが、携帯ゲーム機で出す意義は大きい。寝床で読み聞かせが出来るし、キッチンに持ち込んで画面を見ながら料理も出来る。頑丈に出来たニンテンドーDSなら子供に触らせても安心だ。
大した素材を使わなくとも、組み合わせと味付け次第で、素晴らしいものができあがる。ゲームも料理もレシピ次第というわけだ。
さすがにこの程度のボリュームの1話収録でパッケージ販売をするのは無理だが、何話か集めたり、絵本作家などから素材提供をしてもらい知名度が得られれば市販するのも無理ではないだろう。既存の名作絵本をこのソフト用にアレンジしても良い。単純なコンセプトなので、シリーズ化も十分考えられる。メリットがあるかどうかは不明だが、ソフトエンジンをDSカードに収録し、本編と音楽をGBAカートリッジに入れて取り替えられるようにするのも面白いかもしれない。
今回もスタッフロールから転載
プログラム
ご ほっわい
たなか わたる
たにひら ちほ
はっとり ゆりえ
ほりた じゅんぺい
りゅうごう まゆみ
デザイン
くらた めぐみ
こばやし くるみ
ささき まい
サウンド
いのうえ めぐみ
サブディレクター
はっとり ゆりえ
ディレクター
くらた めぐみ
追記:7月6日にニンテンドーDSで絵本が読めるソフト、こどものための読み聞かせ えほんであそぼうが、3作品発売される。結構安い。