2009年01月27日
ヤフオクのマジコン落札数から推測するマジコン市場の規模
マジコンはおおざっぱに説明すると、ニンテンドーDS等のゲームソフト(ROM)をバックアップし、バックアップしたデータをゲーム機上で動作させるための機器で、要するにゲームソフトのコピー機のようなものだ。最近のマジコンはニンテンドーDS用スロットに接続する仕組みになっており、ゲーム機のデータを吸い出す機能が備わっておらず、ROMを何らかの方法で入手する必要があり、不正にアップロードされたサイトからダウンロードする行為が蔓延している。マジコンやROMをネット上で販売し、逮捕された人もいる(DS用海賊版ソフトを販売、「DSGAMEJP」運営の男女3人を逮捕)。
法的な問題は置いといて、このような行為が広く行われると当然ゲームソフトは売れなくなるし、ゲームソフトを開発、販売を行っている会社や小売店が被害を受けることになる。任天堂も対策を講じており、2008年7月末にマジコンを販売していた会社を提訴している(ニンテンドーDS用機器に対する法的措置について)。これに対して、ごく一部のマジコン愛用者が「自作ソフトを動かす目的で使用している」「私的複製なので問題ない」と正当性を主張し、任天堂の対応に異議を唱えているが、自作ソフトの動作や私的複製などの合法的な利用方法が副次的なもので、開発や販売している業者が不正利用を売りにしていて、ほとんど利用者が「タダでゲームが出来る」ことを目的としていることは明らかといえる。
個人的にも、周囲からゲーム好きであることを知られているせいなのかマジコンに関する話は耳に入ることが多く、使い方を聞かれたり、自慢げにROMデータコレクションを見せびらかされたりすることがある。「持ってない、興味がない」と答えると「タダでゲームできるのになんで?」とまで言われる。不正コピー絡みの話題を振られるたびに内心「アホか」と思ったりするのだが、ゲームソフトは発売日に買って箱や説明書も大事にしているし、映画は映画館で観るようにしているし、マンガは本棚にぎっしり入ってると答えている。
それはさておき、今回のヤフーの対応には気になるところがある。楽天オークションは2008年8月にマジコンの出品を「禁止」しているが、Yahoo!オークションでは任天堂の提訴から半年たって「注意書き」を掲載しただけなのだ。
いったい、どれくらいの量のマジコンがYahoo!オークションで流通しているのだろうか?
オークションの落札相場を集計しているオークファンで調べてみた。
カテゴリ「おもちゃ、ゲーム >> ゲーム >> テレビゲーム 」内で、オークションの商品名(タイトル)に「マジコン」「DS」が両方とも含まれているものを過去1年にさかのぼって集計した。カテゴリが違うもの、タイトルが一致しないもの、落札されなかったものは数に含まれないので実数はもう少し多いと思われる。
月 | 件数 |
2008年01月 | 11,864 |
2008年02月 | 12,982 |
2008年03月 | 9,803 |
2008年04月 | 10,686 |
2008年05月 | 11,878 |
2008年06月 | 12,778 |
2008年07月 | 14,458 |
2008年08月 | 11,273 |
2008年09月 | 18,457 |
2008年10月 | 25,078 |
2008年11月 | 40,923 |
2008年12月 | 65,492 |
合計 | 245,672 |
2009年1月はまだ途中なので、途中集計分から推測すると75,000件以上になると推測される。
グラフにするとこのような感じ
これだけ件数があると落札手数料だけでもヤフーに相当な金額が流れ込んでくるんだろうなあ…と禁止ではなく警告にとどめた理由を邪推したくなる。
夏までは月あたり1万前後で推移していたのに、9月から急激に落札数が急増している。 任天堂の提訴をうけて、パソコンパーツ店などの小売店で販売されなくなったり、楽天などのオンライン通販ショップで販売するリスクが高まったことが原因で販売業者がYahoo!オークションに販売チャンネルを切り替えてきた可能性が考えられる。もしくは、任天堂の提訴→ニュースなどで話題に→マジコンって何?→タダでゲームが出来るの?欲しい!→需要拡大…という嫌な感じの連鎖が起こったのかも知れない。microSDカードにROMデータを保存するマジコンが多いが、2GBでも500円以下という価格下落も関係しているのだろうか。
Yahoo!オークションで入手後、使わなくなって再度オークションに流したものや、複数個を所有している人もいることが推測されるので、約25万件のマジコン=25万人の手に渡ったわけではないだろうが、相当数のマジコンがYahoo!オークション経由で流通していることは間違いない。いったいどれくらいのマジコンが市場に出回っているのだろうか?
まず、マジコンがいつ頃から出回り始めたかだが、この手のハードウェアに詳しい雑誌ゲームラボの2005年7月号で「ニンテンドーDS初のマジコン? NeoFlash」という記事があり、この時期に一般に出回り始めたことがうかがい知れる。また、2005年11月号「ニンテンドーDSの新型マジコン M3を徹底検証!!」、2005年12月号には「アドムービーでニンテンドーDSのゲームが吸い出せる!?」「NDSマジコンM3 徹底活用&HDDで大容量化」という記事がある。2006年以降の記事では頻繁にマジコンの新機種の話題や活用術が特集記事で紹介されている。ゲームラボがマニア向けの雑誌であることを考えると、一般家庭への普及は2007年以降だろうか。
再度グラフを見ると、半年以上にわたって1万件前後で安定している落札数を考えると2007年中も同じような落札数があったのではないかと推測される。若干低めに見積もって月あたり平均7,000件とすると、年間で8万件強の落札があったと推測できる。マニアにしか普及していなかった2006年以前はとりあえず0件とすると、2009年1月までに約40万件の落札が行われたことになる。前述のとおり、タイトルに「マジコン」と「DS」を含まない出品も多数あるので実数はこれよりも多い。
当然Yahoo!以外のオークションやネット通販、店頭販売などもあるわけで、実際の流通量はこの数よりもさらに多くなる。特殊な製品とはいえ、すべての販売窓口の中でYahoo!オークションだけで3割以上のシェアを持っているというのは考えにくいので、少なくともこの3倍はあるのではないだろうか?そうすると、少なく見積もっても、国内に100万台以上のニンテンドーDS用マジコンが出回っていることになる。かなり大雑把な概算なので、この2倍3倍の数量が出回っている可能性もある。
100万台のマジコン、これは相当な量だ。1台のマジコンで何本ものソフトを動かすことが出来る。マジコンを手に入れたことで買うはずだったソフトが買われなくなる事を考えると、本来買われるはずだった100万本の数倍のソフトが売れなくなったことになる。2007年度の日本国内のニンテンドーDSソフト売上げが3000万本強と比較すると、その被害の大きさがよく分かる。
提訴以外にも任天堂は対策をしている。ニンテンドーDSiにはファームウェアアップデート機能があり、新型のマジコンに対して後で対策を取ることも可能になったと推測される。また、ダウンロード専用ソフトDSiウェアは今のところ、コピー被害は出ていないようだ。500円程度で新作パズルゲームが楽しめるArt Styleは手軽に短時間で楽しめるのでおすすめだ。任天堂はあまり行わないが、DSソフトに初回限定特典が最近やたらと付くようになったのもマジコン対策の一環と思われる。
最近のマジコン利用者の話を聞くと、悪事を働いているという感情がまるで感じられないことに驚く。アンダーグラウンドな行為をひっそりと行っているのではなく、節約術か何かと勘違いしているから、利用していることを堂々と公言し、ダウンロードサイトがないか聞いてきたりするし、他の人に勧めたりしてしまう。また、書店に行けばマジコンの使用方法をレクチャーした本が並び、amazonで検索すると「話題の超大作から名作ゲームまで、約1,000本を無料で入手して遊べてしまうテクニックの徹底検証」「DSマジコン&違法サイト&改造コード&MODチップで遊び尽くす!【特別付録:裏ツール&ダウンロードサイト集CD-ROM】」「小学生でも簡単にできる」などと解説がつけられたムック本が販売されていて気分が悪い。不正コピーがゲーム市場に大きな被害を与え、ゲーム業界の未来に暗い影を落としていることを知らしめるための啓蒙活動が必要な時期に来ているのではないだろうか?ただ、それは同時にマジコンの存在を広めてしまうことにもなるので、販売業者に対する訴訟の判決が出てからのほうが良いのかも知れない。
※指摘を元に一部修正しています。