任天堂は12月26日に都内で記者会見を開催し、昨年12月2日に発売したニンテンドーDSの日本国内における実売数が500万台を突破したと発表した。13ヶ月足らずでの500万台販売という記録は、プレイステーション2の17ヶ月、ゲームボーイアドバンスの14ヶ月を抜いて日本のゲーム史上では最速での達成となる。
また、合わせて発表された出荷台数は現在544万台であるという。実売数と比べると40万台強の在庫が存在しているはずだが、メディアクリエイト調べでの先週のニンテンドーDSの実売数は40万台を超えている。十分な追加供給が行われない限り年末年始に本体が品薄の状態になるのは避けられないようだ。既に一部店舗では需要に対応できない状態が発生しており、発表会で任天堂の岩田社長が「申し訳ない」とコメントする一幕もあった。
ソフト面では、ローンチタイトルである「さわるメイドインワリオ」や「スーパーマリオ64DS」が発売から1年が経過した時点で売り上げ本数が80~90万本程度と言われており、大ヒットの目安となる「ミリオンセラー」の不在が続いていた。しかし、「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」(以下、大人のDSトレーニング)で今までのゲームソフトでは考えられなかった「敬老の日特需」が発生したり、例年任天堂が大躍進をしていたクリスマス商戦を経て現在では4本のタイトルが相次いで出荷本数ベースで100万本を突破した。実売500万台での100万本である。ハード所有者の5人に1人が持っているという計算になる。しかもそれが4本!まさに脅威だ。
100万本を突破したのは以下の4タイトル(発売日順)
「nintendogs(柴&フレンズ/ダックス&フレンズ/チワワ&フレンズ)」 108万本 2005年4月21日発売
「大人のDSトレーニング」 134万本 2005年5月19日発売 2,800円4,800円
「やわらかあたま塾」 108万本 2005年6月30日発売 2,800円
「おいでよ どうぶつの森」 127万本 2005年11月23日発売 4,800円
※nintendogsは3パッケージの合算となる。
現在のところ、大人のDSトレーニングの出荷本数が一番多くなっているが、発売後1ヶ月でミリオン達成となったおいでよどうぶつの森がそれをすぐに追い越すことが予想される。さらに、前述のスーパーマリオ64DSやさわるメイドインワリオ、それに最近発売されたマリオカートDSとバンダイのまたごっちプチプチおみせっちなどが近いうちに100万本に到達しそうな勢いだ。一体何本のミリオンセラーが生まれるのだろうか?本体の販売台数ではニンテンドーDSよりもはるかに多いゲームボーイアドバンスでも、ミリオンセラーは2005年12月の時点ではポケモンシリーズ3作品(ルビー・サファイア/ファイアレッド・リーフグリーン/エメラルド)しか存在しないというのに。
発売日が大きく異なる複数タイトルが同じ時期に100万本を突破したことになるが、完全に偶然というわけではないかと思われる。年末にかけて本体の売れ行きがまさにうなぎのぼりといえるような曲線を描いている。子供用にニンテンドーDSを購入した親御さんが、価格の安い大人のDSトレーニングやあたま塾を「ついでにもう1本」と買っていくことが多く、一気に100万本への弾みがついたのではないだろうか?
これらのミリオンタイトルで興味深いのは4本のうち新作ソフトが3本を占めているという点。ニンテンドーDSは重厚長大に走り続けるゲーム業界に警笛を鳴らし、手軽で誰でも楽しめる新しいゲームを提唱してきた。それを体現するようなソフトがミリオンを次々に達成した。これはニンテンドーDSの思想が市場に受け入れられたといえるのではないだろうか。
唯一の続編タイトルである、おいでよどうぶつの森も本来はミリオンを狙えるようなタイトルではない。過去の作品では発売されたハードが落ち込んでいる状態での発売とはいえ、大ヒットといえるような売り上げは達成していない。派手さに欠け、終わりのないゲームであるという、ゲームに慣れ親しんでいる人ほど分かりづらいコンセプトを持ちながら1ヶ月で100万本を越える出荷を達成したのはいくつか理由があるだろう。Wi-Fi通信での「おでかけ」を実装したこと、タッチスクリーンと2画面にゲーム内容がマッチしていたことなどがあげられる。ただ、ネット上でどうぶつの森をプレイしている人たちの話題を目にしていると錯覚しがちだが、Wi-Fi通信の実際の利用率はそれほど高くないように思える。そもそも、Wi-Fi通信目的で購入しているのはごく一部だろう。実際、Wi-Fiのことを何も知らずに購入している人たちも少なくない。
おそらく、どうぶつの森はそういったゲームの出来不出来で売れたのではない。売れた理由はユーザ側にあるに違いない。ニンテンドーDSの会見のたびに岩田社長が主張していた「新規ユーザー層の掘り起こし」が成功した結果がこの爆発的なヒットにつながったのではないだろうか。どう考えても旧来のゲーマーばかりの集団では5分の1以上が買うなんて事にはならない。
ニンテンドーDSのこの意外な形での大躍進はいったい誰が予想しただろうか?マリオもワリオもヨッシーもポケモンもカービィもピーチも、そしてジャンプのヒーローたちも、みんな犬と教授に手が届かない。100万本の壁の上でポリゴン顔の教授がホホホと不敵な笑みを浮かべている。
自分が覚えている限りでは1年前にこの状況(新規タイトルが軒並みミリオン、本体500万台超え)を予想できた人は誰もいなかった。自分もニンテンドーDS発売前はどうしようもなく違和感と不安感を覚えていた。このハードをいったい誰が買うのだろうかと。改めて思い返すと自分がどうしようもなくゲーマーの立場で物事を考えていたのだと分かった。ゲーマーと無関心層の間の人たち、つまり任天堂の言う新規ユーザー層の最前線にいる人たちの購買力を甘く見ていた。個人的な話で恐縮だが、友人と3人で食事をしているときに二人でDSで遊んでいると、もう1人が「買ってくる」と言って店を出て行ったことがあった。冗談だろう、トイレにでも行ったのだろうと話していると、10分後に戻ってきた彼は本当にDSとメテオスを買っていた。
このような新規ユーザ層はまだまだたくさんいる。彼らが買うゲームは決して既存のゲームを少し改良したり、画面を綺麗にしたり、ボリュームを増やしたものではない。そもそも、既存のゲームにまったく興味が沸かないだろう。ミリオンを達成したソフトに共通して存在している斬新さ、手軽さが「あっ、これなら買ってもいいかも」と彼らに思わせるのではないだろうか。
そして、岩田社長は当然の結果だといわんばかりの主張を繰り返し、ヒットの理由を説明しているが、おそらく任天堂もこの状況を予想していなかった。そうでなければ店頭からどうぶつの森があっという間に姿を消し、本体さえ品薄の状態で、看板キャラクタをタイトルにすえたかつての大ヒット作の続編であるマリオカートDSだけがいつでも買える状態─売れていないわけではないが─なんて起こりえない。Touch!Generationsシリーズと銘打った一連の新作ソフト群が発売直後にことごとく店頭在庫がなくなっていったのも任天堂(と小売店)がこの快進撃を予想できていなかった証拠だ。
今回の発表会では、すでに発表済みの「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」および「英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け」の2本の紹介と「旅の指さし会話帳DS」の発表が行われた。
旅の指差し会話帳は同名の書籍をニンテンドーDS向けにアレンジしたもので、アメリカ/中国/韓国/ドイツ/タイの5タイトルが各2,800円で2006年3月に発売される。
「もっと~」のCMには松嶋菜々子さんが出演する。ニンテンドーDSの最初のCMでの宇多田ヒカルさんと同じく、実際に触ってもらった自然な姿をカメラに収めたという。それにしては演技くさいが…。何はともあれ、この「もっと~」の発売をきっかけに前作の需要が喚起され、さらに出荷台数を伸ばすだろう。旅の指さし会話帳DSに関してはちょっとニッチすぎる気がしないでもない。DS楽引辞典と同程度の売れ行きになるのではないだろうか?どの国のバージョンが一番売れるかだけが少し気になる。
しかし、今回の記者会見は「新作ソフト発表会」という名目での開催だったが、実際に発表された純粋な新作は旅の指さし会話帳DSのみ。松嶋菜々子さんの登場という華はあったが、わざわざ年の瀬のこの時期に社長が出てきて開く発表会ではない。では何のための発表会か?
この発表会は1年間のニンテンドーDS大躍進の結果報告、─そして、勝利宣言だろう。何に対する勝利宣言かはいうまでもない。
任天堂、岩田聡社長「最速で500万台を突破!!」。「Touch! Generations」新CMは松嶋菜々子さん(GAMEWATCH)
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