いまから24年前、1996年4月5日にミステリィ小説「すべてがFになる」が発売された。後に、漫画化、ゲーム化、ドラマ化、アニメ化された森博嗣の代表作だ。
この作品の中で真賀田四季という人物が登場し、読者に強烈な印象を残した。
真賀田四季は、世界有数の天才として描かれ、その後の森博嗣作品にも度々登場する。
作中で、真賀田四季はある事情から研究所に監禁されたような状態に長年置かれ、部屋から一歩も外に出ずに研究を行っている。その研究の一つが仮想現実、VRだ。
本作は、その真賀田四季のもとに建築を学ぶ大学生の西之園萌絵が訪ねるところから始まる(森博嗣は、建築の専門家で当時は大学の助教授だった)
仮想現実が何に役に立つのか尋ねる西之園萌絵に真賀田四季は「仮想現実は、いずれただの現実になります」と答える。
西之園萌絵も非常に頭の切れる人物で、天才同士の会話は多くの前提を省略していて、刺激的だ。VRの問題点、VRが定着した未来における建築のありかたなどが語られる
その中でVRの、現在(2020年)よりもさらに先の未来を示唆する会話が行われる。
「物質的なアクセスはなくなりますか?」萌絵は、真賀田女史の話の後半を無視して質問する。
「そうね、おそらく、宝石のように贅沢品になるでしょう。他人と実際に握手をすることでさえ、特別なことになる。人と人が触れ合うような機会は、贅沢品です。エネルギィ的な問題から、そうならざるをえない。人類の将来に残されているエネルギィは非常に限られていますからね。人間も電子の世界に入らざるをえません。地球環境を守りたいのなら、人は移動すべきではありません。私のように部屋に閉じ籠もるべきですね。