2014年02月25日
あなたの言葉が、人を殺す。WHOの自殺報道ガイドラインを読もう
WHO(世界保健機関)主導で行われるプロジェクトに"SUPRE"というものがある。Suicide Preventionの略、日本語に訳すと「自殺予防」を意味する。
SUPREにおける自殺予防に関する研究の成果の一つとして、医師や警察官、学校関係者などに向けた自殺予防ガイドライン小冊子を各国語で刊行している。もちろん、日本語版も作成されており、訳の監修は自殺予防学を扱っている医学博士が行っている。
他のガイドラインも一読の価値があるが、その中でも報道機関に向けて作成された自殺報道のガイドラインは重要だ。
自殺予防 メディア関係者のための手引き - 内閣府
WHO | Preventing Suicide: a resource series
模倣自殺に対する研究が世界中で行われ、そのすべての研究が「メディア報道が模倣自殺を引き起こしている」という結論を導き出している。
自殺手段を報道すれば、同じ方法での自殺が増える。
自殺を克明に、センセーショナルに報じれば報じるほど人が死ぬのである。
マスコミ向けのガイドラインだが、Webで情報を発信するすべての人が読むべきである。
なぜ、一般人が報道機関向けのガイドラインを読む必要があるのか。
なぜ、自殺と関わりがない人も自殺予防ガイドラインを読む必要があるのか。
それは、ある種の人間にとっては、個人の発信力がマスコミを凌駕しているからだ。
特に若年層において従来のマスメディアよりもSNSやWebサイトを重視する傾向がある。
だからこそ、個人blogやSNSはマスコミ並みの影響力を持つことがあるということを考えるべきだ。
特に注意すべきことは、自殺者が遺したSNSアカウントのログやblogを興味本位で読まないこと、紹介しないことだ。
ガイドラインの中に「著名な人の自殺を伝えるときには特に注意をする」という項目がある。
実際に有名人の自殺報道後に、後追い自殺が多発する現象が見られ、特に若年層でその傾向が大きい。
その素性やこれまでの半生を知っている著名人の自殺は、全く知らない人の自殺より、自殺志願者が受けるインパクトが大きいのが原因だろう。
自殺者がWebに残した生前の記録は、著名人の自殺報道と同じ影響力を持つ。
精神的に不安定な人が、SNSのログを残してシンパシーを感じたら?自殺によってもたらされた影響にポジティブな印象を受けたら?
あなたが興味本位で紹介したURLが、屋上に立つ彼らの背中を押すことになることを想像すべきだろう。
日本のマスコミもこのガイドラインの存在は把握しているはずだが、憤りを覚えるほどの逸脱した報道も見られる。
それでもガイドライン発表以前よりはマシにはなっていると思わくもないが。
マスコミも守っていないガイドラインを、はたして個人が守るべきか?
表現の自由、報道の自由という大義名分がマスコミにはある。万が一の場合は責任をとれるだけの覚悟がマスコミにはある。
それに対して、あなたのSNSは、あなたのblogは、他人の命よりも優先するほどの表現の自由が必要なのか。万が一の時に責任を取る覚悟があるのか。そして何より、模倣自殺を生んでしまった重圧に耐えられるか。
そして、ガイドラインの最後に「メディア関係者自身も、自殺に関する話題から影響を受けることを知る」という項目がある。
自殺なんて自分とは無関係だと軽く見て、自殺者のblogやSNSを読みふけっていると、知らぬ間に闇に引き込まれることだってある。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
あなたの言葉が、人を殺さないためにも、殺してしまった重圧に潰されないためにも、そして、あなた自身を守るためにも、自殺報道に対して言及する際には慎重になるべきなのである。