東京ゲームショウが22日(金)から開催される。また、任天堂はマスコミや業界関係者向けにWiiの発表会を9月14日に開催する予定だ。これから2週間に渡り、日本の─いや、世界のゲーム業界が大きく動き出す。
日本でも既にXbox360は発売されており、据置型ゲーム機の"次世代ゲーム機戦争"は既に開戦している状態なのが、本命であるプレイステーション3(以下PS3)とWii周辺があわただしく動き出す今月は本格開戦とでも位置づけられるだろうか。この"本格開戦"に向けて、気になるポイントをまとめておこうと思う。
来年から大幅に規模が縮小されることが決定している、E3が5月に開催され、PS3の価格や出荷予定台数の発表や、「Wii Connect24」などのWiiのコンセプト発表が行われた。それ以降は各陣営とも沈黙を保っていて、少しずつ情報を小出しにしている状態が続いていた。この膠着状態を打開したのがPS3陣営だった。
PS3、欧州での発売延期、国内出荷数激減
ソニーコンピュータエンターテインメントヨーロッパ(SCEE)は11月17日発売予定だったPS3を翌年春、2007年3月に延期すると9月6日に発表した。同時に、11月11日の日本国内発売時の初回出荷台数が10万台、11月17日の北米初回出荷台数が40万台程度になることが発表された。理由は一部の部品の製造の遅れによるものだ。
具体的な数字を出されてもいまいちピンと来ないかもしれないが、10万台というのは正気の沙汰ではない。なんせ、前世代機のプレイステーション2(PS2)が最初の週末だけで100万台近くを出荷している。10万台はこの十分の一、XboxやXbox360以下の水準だ。製造上の問題でカラーバリエーションの延期をしたニンテンドーDS Liteのクリスタルホワイトの初回出荷7万台弱に匹敵する。これで混乱が起きないわけがない。さぞかし当日のテレビや新聞は行列の話題でにぎわうことだろう。
以前自分が分析したデータをもとに考えると、ニンテンドーDS Lite発売日当日に販売されたうち、3,000台程度がヤフーオークションで転売された。販売台数の約5%にあたる。平均すると定価の約1.4倍の価格で取引が成立している。これに近い─あるいはそれ以上のことがPS3でも間違いなく起こる。オープンプライスの上位機種が約75,000円として、同等の価格高騰が起きれば、転売屋は利ざやで3万円程度は手にすることが出来るだろう。これだけ単価が高いと、5%どころではなく、1割以上がヤフオクに流れる事態も起きそうだ。
これは別に転売を推奨しているわけではない。混乱が起きない程度に台数をそろえてから発売した方が良いと言いたいだけだ。一番気の毒なのは発売にあわせて開発を行っていたソフトメーカだ。10万台しか用意されていないハード向けにソフトを出して、一体何本売れるだろうか。本体が潤沢に供給される頃には旧作扱いになってしまう。開発コストはきっと回収できないだろう。
噂レベルの信憑性だが、開発ツールの遅れが原因でソフトの開発も思うように進んでいないという話をよく見聞きする。同様のケースを知っている。ドリームキャストだ。ドリームキャストはグラフィックチップの開発の遅れで、ソフトの開発環境も整わず、供給不足で初日に15万台しか出荷できなかったという。PS3も同じ運命を辿ることになるのだろうか?
PS3そのものは悪いゲーム機だとは思わない。ゲーム機の正統進化として、究極のマシンパワーを選択したのはまっとうな選択だと思えるし、HD画質に対応するのも時代にあっていると思う。欲しいか欲しくないかと問われれば、迷わず欲しいと答えるだろう。ただ、市場が望んでいる価格帯と倍ほどの差を付け、様々なしがらみの影響で発売時期も満足に選べない程に巨大化した固まりは、神の怒りに触れて崩壊したバベルの塔を思わせる。ゲーム市場に過剰な期待を寄せすぎなのではないだろうか。
PS2、値下げ
PS2が9月15日にオープンプライス(店頭価格20,000円弱)から16,000円に値下げされる。既にamazonではオープンプライスの商品を14,800円まで値下げしている。
16,000円というと、ニンテンドーDS Liteよりも安い。現在オープンプライスで実売価格が1万円を切っているゲームキューブには及ばないが、現役でたくさんの新作ソフトが供給されているハードがこの価格で販売されるのは驚異的とも言える。
廉価版の出ている旧作ソフトなら、ソフト込みで諭吉さん2人分。さらにソフト1本加えても、予想されているWiiの価格よりも安い。PS3と本体価格を比較すると1/4以下だ。ここまであからさまだと、PS3の魅力を理解できない層では勝負にすらならないのではないか。
PS3が予定通りの出荷量で発売され、豊富なソフトが供給されたなら、このタイミングでこのような価格改正を行っただろうか?せっかくの次世代機お披露目に水を差してしまいかねない。
これは、PS2でクリスマスと年末年始商戦を生き残るための価格改正、PS3の勝負のタイミングを全世界発売後の来年春以降に見据えている証拠とも言えそうだ。
ちなみにPS3の発売延期と出荷数量激減の発表の前日の9月5日。まあ、なんというか、露骨だ。PS3の生産トラブルの補填にPS2が利用されたとしか思えない。
Xbox360コアシステム発売
PS3の出荷量縮小の発表を受けて、最初に動いたのはマイクロソフトだった。翌々日の9月8日に「Xbox 360 コアシステム」の国内発売を発表した。発売は11月2日。PS3発売の直前だ。
マイクロソフトは東京ゲームショウの前に発表会を予定しており、おそらくはそこでコアシステムの発売を発表する予定だったのだろう。PS3の報道を受けて前倒しにした可能性が高い。
29,800円のコアシステムは、39,795円の通常パッケージから20GBのハードディスク、ワイヤレスコントローラ、リモコン、LANケーブル、D端子ケーブル等を外し、通常コントローラとコンポジットケーブルを追加したものだ。
通常版とコアシステムの価格差は約10,000円。9,975円のハードディスクと3,000円のメディアリモコン(Xbox360同梱品よりも高性能タイプ)を追加しただけで、通常版よりも高くなる。その上さらに、セーブデータの保存に3,200円のメモリーユニットも必要だし、コントローラやケーブルまで通常版と同等のものと交換するとさらに出費が必要だ。そう考えると、実はあまりオトクなパッケージではない。
ただ、発売記念パックとして2,940円の廉価版タイトルが2本オマケで付く。そのソフトが欲しいか欲しくないかは置いといて、ソフト代を抜いた本体のみの価格が、Wiiの予想価格の25,000円を割ってしまう。
すぐに手に入る。そこそこ面白そうなソフトが付いている。ネット経由で体験版をダウンロードしたりしなければHDDがなくてもとりあえず問題はない。価格も半額以下だ。どうせPS3は手にはいるまでに時間がかかるし、ソフトも出そろっていない。とりあえずXbox360を買っておこうか─。11月中旬、次世代ゲーム機を求める早い者勝ち競争の敗者達が、Xbox360を選択してしまう可能性が非常に高くなる。
すでに国内では負け戦ムードの漂うXbox陣営ではあるが、この混乱の最中になにか、コアシステム以上の駒を用意できれば、光が見えてくるかもしれない。Xbox360に外付けで接続する「HD-DVDプレイヤ」の価格がどうなるのかが一番重要なポイントだろう。もし、プレイヤが3万円以下でコアシステムとの合計金額がPS3(20GB)を下回れば、一気に優位性が出てくるのではないか。
Wii用チップ出荷開始
動いたのはマイクロソフトだけではない。任天堂も9月9日(北米時間9月8日)に、IBMを経由して発表を行った。Wiiのプロセッサ「Broadway」の出荷を既に開始している─と。「出荷を開始した」、ではない、「開始している」である。任天堂には既に初出荷のチップが到着しているとしており、Wiiの増産は既に始まっているものと見て間違いない。
これは、生産上のトラブルのあったPS3に対し、Wiiは予定通り十分な数量を供給できますよ、というアピールだ。
PS3同様、製造上のトラブルを起こし急激な出荷数量不足に見回れ、過剰需要の影響で今だ安定供給の兆しの見えないニンテンドーDS Liteと同じ轍は踏まないということだろう。
ちなみにPS3の今回のトラブルは、ソニー内部で生産しているブルーレーザーダイオードの生産計画の遅れが原因。プロセッサであるcellは正常に生産できているという。この、cellを製造しているのもIBMであり、Xbox360のプロセッサもIBMが製造している。─そうか、次世代ゲーム機戦争なんてものはなかったんだ。最初からIBMの一人勝ちだったんだ。
PS3の何が発表されるのか?
IBMの一人勝ちという冗談はさておき、これから数週間の間に次世代ゲーム機戦争を争う各社から、様々な発表が成されることだろう。
これはちょっと想像が付かない。なんせ本体がないのだ。年度内に確実に600万台を出荷すると言っているが、その自信がどこから来ているものか、どうも怪しいものだ。年内200万台というのも守れるかどうか。守れたとしても国内割りあては半分の100万台が精一杯。これじゃ少なすぎる。そもそも原因となっている製造上のトラブルが解消したのかどうかすら不明だ。
発表の内容次第で、本当の出荷台数が予想できる。大々的な発表が行われ、発売日未定ではない新作ソフトや発売後すぐに開始されるサービスが多数紹介されれば、トラブルの影響は初回生産のみで、その後の出荷予定に狂いがないことになる。
逆に違和感を覚えるほど控えめな発表であれば、現在発表している以上にトラブルが深刻で満足な台数が出荷できないと考えることができる。そうなってくると、前述の転売屋による混乱がますます激化することになる。
Wiiの何が発表されるのか?
一方のWiiは、間もなく関係者向けの発表会を行う。発売日、価格、同時発売ソフトが紹介されるに違いない。
発売日は11月上旬だと予想しているが、具体的にはいつになるだろうか。
当然、北米で先行して11月上旬に発売し、国内では下旬になる可能性もあるが、早く遊びたいという個人的な願いにより下旬の可能性は問答無用で切り捨てた。
11月上旬でも以下の3日が濃厚と見ている。木曜日は流通の都合でゲームソフトやハードが発売されやすい曜日である。
11月2日(木)
11月3日(金/文化の日)
11月9日(木)
11月5日は連休最終日なので、この日の発売はないだろう。
また、11月12日(日)も捨てがたいが、11月11日がPS3の発売日だ。さすがに避けるのではないだろうか。前に発売しておいて、在庫が店頭に残っていれば、PS3を買えなかった人たちの手に渡る可能性もある。
連休初日、木曜日の翌日ということで11月3日が本命だと思うが、どうだろうか。
価格は「25,000円を切る」とすでに宣言されており、予想はしやすい。おそらくは25,000円ではなく、もっと安い価格で発売されるのではないだろうか。ただ、他のゲーム機がやたらと高いので、Wiiでは価格面でのサプライズをするまでもないと判断し、極端に安い価格は付けてこないと予想できる。24,000円ぐらいが妥当だろうか。
同時発売ソフトとしては、変更がなければ「ゼルダの伝説」「RedSteel」「スカッとゴルフパンヤ」「Wii Sports」あたりは確実に出てくる。他にも意外性のあるソフトが多数でてきそうだが、Touch!Generations的な非ゲームユーザ向けのシリーズ物の第一弾が同時発売ソフトとして出て来ても面白そうだ。一部報道であったダイエットソフトが登場するかもしれない。
他にも、Wii発売前のプロモーションイベントの詳細が明らかにされるだろう。ニンテンドーDS以上に"触ってみないと分からないゲーム機"だ。発売前に多くのユーザに触れてもらえるよう、何か仕掛けてくるに違いない。
あれこれ予想をしているが、当たっていようといまいと、各陣営から様々な情報が出てきてこの数週間の間に疑問に思っていた部分がいろいろと明らかになってくるだろう。一体どんなサプライズがあるだろうか。
そしてあと2ヶ月もすれば、PS3が─そして、おそらくWiiも─発売される。これはもう、純粋に楽しみで仕方がない。