ファイアーエムブレムシリーズは、ファミリーコンピュータで第一作が発売された後、ほぼすべての任天堂ハードで新作が発売されている人気シミュレーションRPGシリーズである。
息が長く、固定ファンも多いシリーズではあるが大胆な新システム導入も行っていて、任天堂の実験場になっている印象を受ける。
1997年の「アカネイア戦記」では、BS放送を利用した配信システムであるサテラビューでのリリース、1999年の「トラキア776」では書き換えカートリッジを使ったニンテンドーパワーでの配信を行っている。
現時点で発売済みの最新作である「ファイアーエムブレム覚醒」では、任天堂発売のゲームとしては初めて追加シナリオの有料配信を実施している。フルプライスのパッケージソフトとして、単体で十分に楽しめるボリュームを持ちながら、より長く遊びたい人に対して有料でシナリオを追加する仕組みとなっている。
新規タイトルではなく、シリーズの固定ファンが多く、ある程度の売上が期待できるファイアーエムブレムは実験場として適していたのだろう。
市場の反応が良かったのか、スーパーマリオシリーズやマリオカート8、スマッシュブラザーズなど、その後の任天堂ソフトでも同様のシステムが多く取り入れられるようになった。
さて、覚醒に続く最新作「ファイアーエムブレムif」は6月25日に発売されるが、こちらではさらに一歩踏み込んで複雑な追加シナリオ課金を実施することとなった。
2つの王国が対立するストーリーの本作のパッケージ版は、それぞれの王国の名前を冠した「ファイアーエムブレムif 暗夜王国」「ファイアーエムブレムif 白夜王国」の2種類が発売される。主人公が対立する2つの王国のどちらに属するかを、購入時点で決めることになる。また、暗夜王国は高難度、白夜王国は低難度の設定となっている。
ダウンロード版は1種類のみの発売で、序盤6章目までは共通のシナリオだが、6章終了時点で2種類のパッケージ版と同じように王国の選択を迫られる。ストーリーを知った上での選択となるので、パッケージ版より、ドラマチックに感じることだろう。
それぞれのシナリオは前作「覚醒」と同等とされている。では、両方共楽しむなら2本買う必要があるかというと、その必要はなく、ダウンロードコンテンツとして、"選択しなかった方の王国"を選ぶシナリオが購入できる。
さらに、後日どちらの王国にも所属しない第3のシナリオ(タイトル未定)も配信予定だ。2本目のシナリオを購入せず、こちらだけを買うこともできる。
また、2つのシナリオに加えて、第3のシナリオのダウンロード権と限定グッズが付属した「SPECIAL EDITION」も発売される。
これらの内容を図にまとめるとこのような感じだ。
SPECIAL EDITIONのお得感が目立つため、amazonなどで予約が殺到してあっという間に締め切られてしまったようだ。後日追加予約もあるようなので、欲しい人はこまめにチェックしよう。
冒頭で、ファイアーエムブレムシリーズが任天堂の実験場になっていると書いたが、このシステムが今後定着する事はあるだろうか?
2パッケージでの販売、後日1パッケージの追加というと多くの人が特定のソフトを想像するだろう。そう、ポケットモンスターだ。
ファイアーエムブレムifがうまくいけば次期のポケモンでこの"if形式"を展開することが予想される。
しかし、この予想は、半分正解、半分外れだと考えている。
ポケモンがパッケージを分割しているのは、2つのシナリオを楽しめるようにするという要素よりも、ポケモンの出現率に差を持たせて交換を促すという側面がある。そのため、追加コンテンツとしてもう一方のパッケージが楽しめるというのは、あまり歓迎されないのではないだろうか。
ただ、第3のパッケージについては、ポケットモンスターブラック2/ホワイト2で見せた"続編"という展開もありえる。こちらならフルプライスのパッケージ版と、1からの追加コンテンツの2本立ても十分可能だろう。
さて、任天堂がこのような複雑な方式を採ったのはどういう理由だろうか?
1本のソフトでなるべく多く収益を上げるという、わかりやすい利益向上策であることは間違いない。だが、それ以上に、ダウンロード販売の比重向上を狙ったものではないかとみている。
第2、第3のシナリオはダウンロードオンリーだし、購入前に王国を選ぶパッケージ版より、途中から選択できるシステムを採用したダウンロード版のほうがより一層感情移入ができる。
パッケージソフトは、物流にのせる必要があるのでコストがかかる。売れ残りや品切れのリスクもある。それに対し、ダウンロード版はコストが低い。在庫も存在しないのでリスクも少ない。
以前から、少しずつダウンロード配信への移行を進めている任天堂だが、今後はもっとダウンロードの比重が大きくなるだろう。
たとえば、資源節約という分かりやすい建前を用意しているが、説明書の電子化もパッケージ版の優位性を減らすための施策の一つだろう。
そもそも、配信へのシフトは任天堂に限らず業界全体の流れであり、むしろ動きが遅いぐらいだ。おそらくは、先代社長の頃からつながっている問屋、小売店への配慮があったのだろう。そちらに対してのフォローも行っていて、決してダウンロードすることが出来ないゲーム連動フィギュアである「amiibo」を店頭で売るようにしている。
皮肉にも、amiiboはパッケージソフト同様の品切れリスクをガンガン露呈していて、よりによってamiibo連動で追加コンテンツ解禁という仕掛けを盛り込んでしまったSplatoonは、ソフト発売前からamiiboの予約合戦+高額転売という地獄の様相を呈している。かんべんしてくれ…。
あと、完全に余談なのだが3本分のシナリオを買うと9000円ほどの金額になるファイアーエムブレムifよりもおそらく長時間楽しめる、ゼノブレイドがNew3DS専用ソフトとして3,996円というクソ安い定価で絶賛発売中です。面白いので買おう。