2017年11月03日
スーパーマリオオデッセイの発売に寄せて
コンシューマゲーム業界は、常に次の世代のゲーム機について研究を行っている。2015年に亡くなった岩田前社長は、生前に任天堂が次世代機Switchを使ってどういったビジネスをしていくかプランを組み立てていて、現在の任天堂はその計画に沿って事業を展開している。まだ、ハードウェアに関しては岩田さんの影響が残った状態だ。
しかし、ゲームソフトについては発売のギリギリまで仕様を練りこむ必要がある。そうして作られた2017年のソフトには、岩田さんの影響があまり残っていないはずだ。ポスト岩田体制を構築し、任天堂は大きな転換期を迎えている。
この2年間、ポケモンGOフィーバーのお陰で株価は上昇ムードだったものの、任天堂の据え置きゲーム機の状況は芳しくなかった。Splatoon以降の、いまいちパッとしないWii Uのソフトラインナップと、前年比でマイナスになり続ける売り上げに「コンシューマビジネスは終わりだ」「スマートデバイスへの転換が必要だ」と任天堂に対する風当たりが強くなる中、Switchが発売された。同時発売の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(BotW)』は、任天堂の新しい風を感じさせ、風評を吹き飛ばした。荒れ野から若々しい芽が萌え出し、一気に天に突き抜けるような大樹に成長した姿は、まさに野生の息吹、ブレスオブザワイルドだった。一時期は、前代未聞の装着率1.0超えを記録した。Switch本体よりもゼルダのほうが売れているという異常事態である。ハードを手に入れられなかった人たちが先にソフトを入手したり、限定版目的で複数本購入したのであろう。まさに、キラータイトルだ。
Switchは、ゼルダという大樹に支えられて素晴らしいスタートダッシュを切った。しかし、1本の大樹で保持できるほどゲーム業界はイージーモードではない。第二、第三の柱が必要である。ゼルダに続いてリリースされたマリオカート8DX、ARMS、Splatoon2、どれも素晴らしい作品であった。特にSplatoon2は国内において9月末時点で195万台のSwitch本体に対し、実に75%もの売上となる145万本という脅威的な売上を記録し、発売数ヶ月後の今もなお本体の普及に貢献している。しかし、これらのタイトルも、ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドが持つ、歴史に裏付けられたIP、新規性、圧倒的スケール感と比べると差を感じる。Switchには、屋台骨となるもっと、太く高い樹が必要だ。
そんな中、年末商戦に先駆けてスーパーマリオオデッセイが登場する。単にマリオシリーズの新作が新ハード出るという話ではない。市場の期待は、いままでのどのマリオよりも高かった。ゼルダの伝説BotWは、任天堂の新しい未来像を見せてくれた。じゃあ、マリオは何を見せてくれるのか?Switchを支える2本目の大樹となりえるのか。
ゼルダの伝説BotWが大絶賛を伴って市場に迎え入れられ、歴史的な成功を収めている様子を見ながら、スーパーマリオオデッセイのチームは、どのような気持ちでいただろうか。30年を超える歴史を持つキャラクター、広大なマップ、いままでとは違うゲーム性、BotWとオデッセイには共通点が多い。どれだけ出来が良くても「ゼルダと比べるとね…」みたいなことを言われるのか不安だったのではないか。それとも、間違いなく成功すると揺るぎない自信を持っていたのだろうか。