2015年12月16日

任天堂株主が見るSplatoonのマーケティング


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この記事は、Splatoon Advent Calendar 201516日目の記事です。
15日目の@mizchiの執筆遅れが発生し、こちらのほうが先に公開されております。
追記:2日遅れで掲載された。FPSで吐きまくってエイム上達しなかった僕がボイチャで訓練されてS+になるまで。またはボイチャ訓練の薦め

自己紹介

アドベントカレンダー経由でのアクセスが多いと思うので、自己紹介。
私の名前はあれっくす。任天堂ファンサイトを20年弱やってます。
ウデマエS、ランク50、アオリちゃん派のイカです。
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現在の装備はN-ZAP89、アローバンドブラック、タイシャツ、タコゾネスブーツ、それと任天堂株券です。

PV一つで魅了された

今まで、当サイトでSplatoonに言及した記事を集めてみた。月に数回程度しか更新しないサイトで、一つのタイトルにこれだけの記事を書くことはめったにない。

2014/06/12 E3で発表されたWii Uの新作「Splatoon」に見る、任天堂のアイデア
2014/06/27 任天堂株主総会レポート 2014
2015/05/12 "Splatoon完成披露試射会"で見せた任天堂の新しい広告戦略
2015/06/02 Splatoon、サイコーだ。
2015/06/12 Splatoonに学ぶビジネスの極意
2015/06/21 Splatoonは引き算で作られている
2015/06/26 任天堂株主総会レポート2015
2015/07/14 岩田社長、ありがとう。おつかれさま。
2015/08/26 Splatoon甲子園に出場します
2015/09/16 Splatoon甲子園に出場してきた

私は、2014年のE3においてSplatoonというタイトルが初めて世に出た、その瞬間から、このソフトに"2つの視点"からSplatoonに注目している。一つは、ゲームを楽しむ一般のプレイヤとしての視点、もう一つは任天堂の今後の経営を分析する株主としての視点だ。

Splatoonがいかに面白く、人々を熱中させるのかについては、「Splatoon目的でWii U本体ごと購入した」という人たちの数、amiibo争奪戦の殺伐っぷり、ガチプレイヤたちのプレイ時間の長さなどから明らかであり、私自身相当な時間遊んでいるし、何度もSplatoon記事でその面白さを伝えようと努力している。

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様々な意見があるだろうが、Wii Uはいわゆる"負けハード"だ。長年の任天堂ファンであり、株主である自分としては認めたくない部分ではあるが、ハードの売上、注目度、発売タイトルの本数のどれをとっても逆転の芽は見えない。
本記事では、Wii Uという負けハードで任天堂がSplatoonを発売したことに対する意味、そして今後の展望について語っていきたい。

持続可能なタイトル

Splatoonは、ヒーローモードやバトルドージョーというオフライン専用モードも備えているが、実質的にはオンライン専用タイトルである。対戦したいときに短時間で対戦相手とマッチするためには、多くのプレイヤが同じ時間にサーバに接続している必要がある。

多くのゲームは、発売日以降どんどん稼働率が下がり、オンラインゲームは快適なマッチングができなくなっていくものであるが、Splatoonはいつまでたっても十数秒程度で8人の参加メンバーが揃う環境が持続している。

発売当初と、現在(2015年12月)の時点では、ゲームのボリュームに大きな差がでている。発売当初5ステージしかなく、ナワバリバトル1モードだったのに、現在は13ステージだ。ナワバリバトルに加えてガチマッチも3種類遊べる。ブキやギアも数多く選べるようになっている。

購入したゲームソフトに、そのゲームのすべてが収録されていた、既存のパッケージビジネスから、継続してアップデートされるスマホゲームのエッセンスが加えられている。定期的に追加要素を提供することによって、話題性を持続し、プレイヤのSplatoon離れを防いでいる。発売当初は構成要素が少ないので、複雑になりすぎず取っ掛かりの良さも生まれている。

この点は、Splatoonの大きな魅力ではあるが、任天堂全体としてはどうだろうか。一つのタイトルに、プレイヤが集中することはあまり喜ばしいことではない。定期的に新規タイトルに手を出してもらい、お金を落としてもらうことが大事だ。この点に関しては、Wii Uの新規タイトルが少ないことが関係しているように思える。どうせ遊んでもらえる新規タイトルがないなら、Splatoonで客を釘付けにしておいたほうがいいと判断しているのかもしれない。

Splatoonにおいて、現在はアップデートを無料で提供している。発売日以降も開発が続く体制では開発コストが出て行くばかりだ。そのうち有料のアップデートが提供されることだろう。そのときに任天堂の次の戦略が見えてくるに違いない。

自由なプロモーション

Splatoonは発売日以降の国内週販ランキングで、常時トップ10圏内を維持しており、12月上旬の時点で国内売上80万本を突破し、年末年始商戦での頑張り次第ではミリオンにも手が届く勢いだ。

**追記**
12月16日に発表されたシオカライブ2016告知の中で、販売本数100万本突破が発表された(※自社調べ。パッケージ版、ダウンロード版、本体セットの販売本数を合算)
11月末に発表された中間決算では9月末の時点で全世界242万本となっていることから、海外でも売り上げは好調である。
**追記ここまで**

もちろんテレビCMや雑誌等での広報活動も行っているが、これだけ継続して売れ続けているのは口コミの効果が大きい。中でもTwitterなどのSNSで、積極的にプレイヤ同士が情報交換を行っていて、プレイヤ以外の目にも止まりやすい状況がつづていることが大きな効果を上げている。大衆に向けた宣伝よりも、身近な誰かがものすごく楽しそうにしている様子を見るほうが購買意欲をそそられるというものだ。そして、Twitterでの話題の発端となるのが公式Twitterアカウントによる定期的な情報提供だ。

新しいブキのリリースは毎週のように行われ、その告知ツイートは数分で数千件もRTされる。世の中に多くの企業公式アカウントがあるが、RTされることを狙ったようなネタツイートではなく、本来の業務である製品の告知そのものが毎回1万を超えるRTを獲得するアカウントはなかなか見られるものではない。

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本日発表されたシオカライブ2016開催告知は、10分以内に5000RTを超えた。驚異的拡散力だ。

今までお世辞にもネットでの広告戦略が得意とはいえない任天堂ではあったが、今回は大成功だ。SNS活用事例の中でもかなり特殊な成功例であるものの、任天堂が宣伝面でも同様のヒットを連発することを株主として期待したい。

各種コラボレーションと関連商品

各種コラボもSplatoonの魅力の一つだ。月に1回程度のペースで実施される"フェス"では、東洋水産やキリン、くら寿司、佐賀県とコラボレーションしている。ほかにもファミ通や、イカ娘、さらに海外ではトランスフォーマーとのコラボも実施されている。コラボの中でも佐賀県とのコラボ"Sagakeen"は力を入れており、イカが名産の呼子の地で長期にわたってイベントを開催している。

ニコニコ超会議(町会議)とコラボしたSplatoon甲子園も盛況だ。実際に参加した(そして一回戦敗退した)が、あらゆる年齢層のプレイヤたちが本気で戦っていて、オンラインの向こう側に多くのプレイヤが存在することを実感させられた。

グッズも多く販売しており、新規IPの割には膨大な種類のキャラクタ商品が発売されており、ソフト発売から半年以上経過しても新商品のリリースの勢いが止まらない。

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※被り物は非ライセンス商品

これらの商品の多くは、入手が困難な状態が続いている。任天堂の新しい方針として、スマートデバイスへの進出と併せて、自社IPの有効活用も発表されている。それは、株主総会においても、マリオやカービィなどの既存キャラの有効活用を前提としたものと受け止められていた。長期的には新しいIPを増やすことも当然想定していたとしても、これほど早く新規IPで成功例を見せることになるとは多くの株主も予想していなかったことだろう。

若手開発陣による新規タイトル

今年、任天堂における最大の出来事は岩田聡社長の死去だ。私自身、しばらくの間、彼を失った衝撃から立ち直ることが出来なかったが、大粒の雨の中、葬儀に参列し遺影に向かって感謝の気持ちを送ることができたのは幸運であった。

岩田社長は亡くなる2週間前には株主総会で議長を務めており、任天堂経営陣にとっても、彼の死は突然のものだったであろう。後任の社長人事の発表が急逝から2ヵ月後の発表であったことからも、明らかだ。

後任の社長として、以前からIR担当役員だった君島氏が就任したことはサプライズに欠けるものであったものの、任天堂は本来発表する必要のない本部長・副部長クラスの人事まで併せて発表している。技術部門のトップであった宮本氏、竹田氏を技術フェローとして、(肩書の上では)実務から遠ざけると同時に、多くの若手スタッフに決定権のあるポジションを与えている。おそらく岩田前社長が数年後に行うはずだったものだろう。

組織の老化は任天堂が抱えている課題の一つであることは、長年任天堂を観察している側からみても明らかで、すぐにでも手を付けるべき問題であった。技術フェローの二人はともかくとして、50代あたりの社員の存在が若いスタッフのアイデアを潰していく体制になっているのではないだろうか。意図的に若いスタッフで開発陣を固めたSplatoonは、岩田前社長が考える新しい任天堂、若い体制を社内に認めさせるための試金石となるソフトだったのではないだろうか。

…で、ちょうどこの段落の文章を書き終えたあたりで、ほぼ日刊イトイ新聞において宮本さんと糸井さんの対談連載が始まり、まさにそのことに触れていた。

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Splatoonは、岩田前社長が最後に残した遺産であると同時に、ポスト岩田体制のスタートを象徴するソフトでもある。今後、任天堂の歴史を語る上で「Splatoon以前」「Splatoon以後」と分けられるぐらいのタイトルだと思っている。

エンターテインメント業界の一寸先は闇だ。だれも正確な予想はできない。
少なくない金額をその会社に投資している株主としても、任天堂の未来は輝かしいものであってほしい。Splatoonは任天堂が目指す未来に、成功の光を見せてくれた。Splatoonがゲーム業界の常識を塗り替え、任天堂がこのナワバリバトルを制することを祈りながら、私は今日もイカの世界に飛び込む。

明日のSplatoonアドベントカレンダー12月17日は@yamatemaさんの「Splatoon のウィンターボンボンを作った話」です。イカ、よろしく―。


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