任天堂株主総会レポート2017
毎年6月下旬にお届けする任天堂株主総会レポートも今回で5回目。
いままでは前日泊で気合を入れて乗り込んでいたのだが、博多からの始発でもギリギリ間に合うじゃんということに今更気づいて今回は日帰りで参加。
君島社長が就任して2回目の株主総会となる。
任天堂は直近に39,000円台の株価を付けた。WiiとニンテンドーDS全盛期につけた上場来高値73,200円には及ばないものの、約9年ぶりの高値圏となっていて、株主としては安心して望める総会となっている。
曇りではあったものの、雨は降っておらず、6月にしてはかなり蒸し暑い日だった。
毎年、3DSを開いてすれ違い通信を楽しんでいる株主が見られるが、年々数が減ってきている。
それでも、40人ほどとすれ違いに成功し、3回目4回目のあいさつをしてくるMiiも多い
事業報告は昨年同様、動画による紹介
岩田前社長が議長をしていたころは、社長が"直接"プレゼンテーションソフトを使って説明をしていたが、君島社長に代わった昨年はあらかじめ用意された事業報告動画を流す形式に代わった。そして、今年も同じ形式だった。
毎年のお約束事項だが、現地での不正確なメモを元に記事を書いており、聞き間違いや誤解が含まれる可能性があるため、正確な情報を知りたい方は後日任天堂のサイトに議事録が掲載されるのを待つことを強くお勧めする。
事業報告の要点は以下の通り
・Nintendo Switchを3月3日に発売し、好調
・2017年3月末までに、ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドが276万本、Wii U版を含めると384万本が売れた
・Switch本体は274万台(ゼルダより2万少ない)、ソフトは合計546万本
・3DSでは、11月に発売したポケットモンスターサン・ムーンが1,544万本
・マリオメーカー、カービィロボボプラネットも好調。
・ポケモンGOの配信以降、過去のポケモンの売上も伸び、海外ではハードの売上も伸びた。
・Wii Uはゼルダ以外は不振
・スマートデバイス向けは、スーパーマリオランとファイアーエムブレムヒーローズを配信し、好評
・ニンテンドークラシックミニファミリーコンピュータも好評
・amiiboに関してはフィギュア910万体、カード930万枚に留まった
・ダウンロード売上も追加コンテンツの売上が少なかったため、前期と比べて大きく減少
・ポケモンGOの売上やマリナーズの一部売却などで純利益が前期比521.5%増となった
・「世の中の人々を商品やサービスを通じて笑顔にしていく」という信念の元「任天堂IPに触れる人口を拡大する」ことに注力する
・ゲーム専用機ビジネスの拡大とスマートデバイスビジネスの確立に努める
・テーマパークでキャラクターを使ったアトラクション、映像コンテンツなど任天堂IPを活用していく
・Switchについてはいつでもどこでもだれとでも遊べるコンセプトを活かすソフトを出していき年末商戦につなげていく
・3DSはすでに6600万台を超えており、ソフトウェアの売上が期待できるプラットフォームに成長している
・スマートデバイスビジネスにおいては、収益モデルの異なる3種類のアプリを出した
・21タイトルを収録したニンテンドークラシックミニスーパーファミコンを国内10月5日、海外9月29日にリリースする
軽く流されたが、ダウンロード販売が「大きく減少」している部分が気になる所。
ダウンロード販売は、パッケージ版よりも利益率が大きいので今後伸ばしておくべき形式なのだが、追加コンテンツが売りのソフトが当期に少なかった影響が出たようだ。
追加コンテンツの影響が大きいということは、ソフト本体のダウンロード販売はさほど利用されていないということになる。これは任天堂の今後の課題といえるだろう。
また、「3DSが6600万台売れているからソフトをリリースしたときに売れる受け皿ができている」という認識であるようだが、その6600万台のうちバッテリ切れの状態で棚に片付けられている3DSが何千万台あるか考えると、再び手に取ってもらうためのアピールが必要だろう。
続いて質疑応答。
冒頭でも書いたが、株価が好調なため、株主も安心して総会に臨んでおり、責任を追求したり問題点を指摘するような質問ではなく、会社をより良く発展させるための提案をしてくる株主が多かった。
すべての質疑応答を書くと長くなるので、気になったものだけをピックアップ
ゲーミングPC分野への進出
株主「いまのゲームはモバイル、家庭用ゲーム機、ゲーミングPCの3分野に分かれている。ゲーミングPCについては大きく伸びていて、海外ではプロゲーマーも生まれている。ハード面、ソフト面で任天堂がゲーミングPCに取り組む予定はあるのか?」
君島「任天堂は独自のゲーム専用機とソフトが一体となった新しい遊びを提供していくのが一番いい方法だと考えている。スマートフォンでも好評で任天堂のIPに触っていただいている。その結果、ゲーム専用機ビジネスに触れてもらえる機会が生まれている」
高橋伸也「先日E3でマリオオデッセイを中心に展示をした。去年までは業者のみの展示会だったが、今年は一般の方も入るようになった。普段は最終日に空いてくるが、一般の方が任天堂ブースに集まり宮本(茂・取締役)の出待ちをしていた。宮本はユービーアイソフトのブースにシークレットで登壇し、盛り上がった。ここは宮本に」
宮本「ユービーアイさんにはマリオとコラボしたラビッツのPRで登壇した。PCゲームに関しては最近ものすごくたくさんブースがあったが、今年はコンシューマーゲームが盛り上がった。蛇足だが、去年は盛り上がったVRの展示が少なかった」
正面から質問に答えている感じではなく、はぐらかしている印象を受けた。
去年もそうだが、宮本さんがE3の印象について触れると任天堂のポジショントークになる傾向が強い。去年はVRの展示が多かったがあまり盛り上がっていなかったように話し、今年はPCやVRの展示が少ないと言っている。
しかし、実際、去年のE3の時期と比較し、1年で爆発的にVRが普及したかというと、ハードの価格が普及帯まで下がらず、VR機器の大量生産がうまくいっていないせいもあり、たしかに大規模な普及には至っていない印象はある。ポジショントークではあるが、業界のトップを走り続けたクリエイターによる分析としての正当性は十分にあるといえるだろう。
Switchならではのタイトル
株主「(省略)…というような、ゲーム画面を見なくて遊べるような新しいゲームをSwitchで出すのはどうか」
君島「1-2-Swtichで遊ばれた方も多いと思いますが、ゲーム画面を見ずに向かい合って遊べるようになっている。今後どのようなソフトを出すか、内容を具体的に話してしまうと驚きがなくなってしまうので、ほんのすこしだけ、宮本に」
宮本「色々ご提案ありがとうございます。ゲーム機は、そこそこの性能があれば十分だと理解されてきた。Wii FitやNintendogsといった異色のゲームを作ってきたし、まだ引退していないので開発も見ている。リークにならない範囲で、あとは高橋に」
高橋伸也「すごいフリを(苦笑) 1-2-Switchのような仕組みを使った別のゲームのプロジェクトがいくつか動いていて、この場ではお知らせできないが、近々発表の機会もあると思う」
だいぶ自己顕示欲の強い株主さんだったようで、5分ぐらいに渡って「ぼくが考えたさいきょうのSwitchゲームアイデア」的なものを5,6個ほど具体的に披露した上で、任天堂も従来型のゲームだけではなくこれぐらいのアイデアを出したらどうか?みたいな提案だった。その割には、1-2-Switchにもすでに収録されているビーチフラッグスとかWii Fitに入っていたランニングゲームをいかにも自分が思いついたように提案してて「それもうあるよ」と止めたい気持ちでいっぱいだった。せめてSwitchのCMぐらい見ておいて欲しい。
右Joy-ConのIRカメラが現状、早食いコンテストでしか使われていない感じなので、そういうSwitchならではのギミックを使った新作タイトルは待ち遠しい。高橋さんの話しぶりだと、年内に1タイトルぐらいは発表されそうな気がする。
映像コンテンツの資産活用
株主「過去に制作した映像資産の活用について聞きたい。具体的には星のカービィのアニメ版の再展開はあるか?カフェコラボなどで非常に高い人気があり、ネット配信やBDパッケージ再販の可能性について聞きたい」
※アニメ版星のカービィは、レンタルVHSのみ全話収録されており、セルDVDは途中で販売が打ち切られており、現在のところBlu-rayの販売予定もない
君島「映像制作への投資は検討していく。任天堂IPに触れる機会を増やしていって、ハード・ソフト一体型のビジネスにお客様を導いていきたい。カービィについては、この場で具体的にお話できないが、貴重な意見として承る。IPを統括している宮本から補足を」
宮本「カービィは我々がしっかり権利をおさえていて、ヨーロッパでは展開している。その影響でスペインでカービィが売れている。ゲーム機が販売できない地域でも映像は販売できる。カービィ以外にもピクミンのCGアニメ、スターフォックスのPRビデオ、ヨッシーのゲーム内アニメーションなども作って展開をしている」
カービィの映像ソフトが中途半端な状態でしかリリースされていないことを今回の記事を書く段階で初めて知った。他社が権利をおさえているというわけではなさそうなので、需要が見込まれているのなら再展開もありそうだ。特に最近はIPの有効活用の一環で、カービィ関連グッズのリリースが多く、その都度品切れが続出しているのでアニメ版の再販は需要が見込まれるだろう。
Switchは映像配信サービスとの親和性が高いと思うので、将来的にNetflix等に対応して、それらのプラットフォームの中でアニメ版カービィを展開したり、独自のSwitch向け映像配信サービスを開始するのも良いかもしれない(以前Wiiの間で失敗してたけど)
USJのスーパーニンテンドーワールド
株主「USJでのスーパーニンテンドーワールドに期待しているが、海外展開はないのか?」
※昨年、アメリカの2箇所と日本で展開すると発表済みなのを知らずに質問した様子
君島「ユニバーサル社と提携し、日本以外にフロリダ州オーランドとカリフォルニア州ハリウッドで展開することをすでに公表している。宮本が中心になっているので、宮本に」
宮本「大阪のUSJの駐車場をスーパーニンテンドーワールドに作り変える工事の着工をしたら、すぐにバレるだろうということで、発表会を開いた。それで、USJだけ任天堂と提携したと誤解されてしまったのだと思うが、同時進行でアメリカでも工事を進めている。オリンピックがあるので日本が先行するが、ぼくも隔月でフロリダに飛んで開発している」
ニュースリリースをちゃんと見ずに質問したのはアレだが、工事を開始したらすぐにバレるのでさっさと発表しちゃおうという裏話を引き出せたのは良かった。
株主優待
株主「株主優待について聞きたい。スーパーニンテンドーワールドのオープン時に株主招待日や、エクスプレスパスを配布して欲しい」
(会場から笑いと大きな拍手)
君島「現在株主優待はしていない。配当で還元している。個人投資家と機関投資家では捉え方が異なる。貴重な意見として承る」
1単元の株価が高すぎるので分割してほしいという話と、優待が欲しいという話は、割とよくでる話題で、その都度「検討する」「貴重な意見」といってスルーされていて無理な理由も十分わかっているのだけど、プレオープンで株主招待とか最高に魅力的すぎるので是非!是非!!是非!!!実現して!!!!他の会社も絡んでるから絶対に無理のなのはわかってるけど!!!!!
スマホ課金
株主「スマートフォンアプリで、買い切りとアイテム課金があるが、どのような考え方か知りたい」
君島「任天堂のスマホゲームは3タイトル(Miitomo、スーパーマリオラン、ファイアーエムブレムヒーローズ)を展開しているが、それぞれ支払い方法が異なっていて、どのような形がいいか考えている。スーパーマリオランでは、1億5,000万回無料ダウンロードされているが、有料コンテンツを購入しているのは1割に満たない。しかし、非常に多くの人が任天堂のIPに触れていて、公式に配信されていない国を含めると200カ国以上ダウンロードされている。国によっては、ほとんど購入されていないが遊びたいと思ってもらえている。また、ファイアーエムブレムヒーローズについてはダウンロード件数が1/10以下だが、収益はスーパーマリオランを超えている。IPにより、ユーザーの総数と客層が異なる。」
1.5億DLの無料+買い切りゲームよりも、売上が多いFEヒーローズ…。ガチャは恐ろしい。
これで味をしめて、どうぶつの森にもガチャを入れてきたら嫌だなあ。
総括
前述のように、目下の業績も株価も好調で、途中で拍手や笑いも出てくるほど和気あいあいとした株主総会だった。
昨年の総会記事で『現状を考えるとそれほど楽観視出来ない感じなのに、あまり危機感を感じさせないのはNX(※Switchの当時の仮称)に相当な自信があるものだと信じていいのだろうか』と書いたが、Switchには相当な自信があったことが理解できた。生産が追いついていないので、その自信をも超えてしまったわけだが。
質疑応答で、宮本さんよりも高橋伸也さんが出てくる機会が多く、開発部門のトップが代わったのだな、という印象を受けた。
品切れ状態で販売終了をしたミニファミコンや、いつになったら品切れが解消されるか見通しすら立ってなさそうなSwitchで、甚だしい機会損失が発生している状態について、だれか指摘する人がいないか気になっていたが、指名された株主からはそのような声は出なかった。
先日Switch品薄のお詫びと増産のお知らせを掲載したものの、需要を満たせるほど生産するならIRで業績見通しの上方修正を出す必要が出てくるから、増産についてはそれほど多くないのではないかと、私は推測している。
増産量がさほど多くないのであれば、Splatoon2発売前後の需要増と、年末商戦を視野に入れると「お店に行けば普通に買える」という状況は今年中には見ることができないのではないかと思っている。
家族や友人から「どうやったらSwitchを買えるの」という相談を受けることが多く、最近は「ネットを細かくチェックしたり店頭に問い合わせたりする努力ができないなら、年内は諦めたほうがいいよ」と答えている。早くこの状況をなんとかしてほしいものだ。
また、長年役員を務めた竹田玄洋代表取締役/技術フェローが今回は再任せず、取締役は退任となる。何か一言欲しかったが、総会中一言も発することはなかった。閉会後、株主席から「竹田さん!ありがとうございました!」の声が上がり、笑顔を見せた。
おみやげ
また同じタオルかよ。
余談
株主総会後に、Tジョイ京都で映画「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」を観ました(13回目)
フィギュアスケート的な競技のアニメなのだけど、腹筋爆弾で会場が破壊され、即座に会場が立て直され、民主制が成立し、地球の色は青くなく、さっき出来たばかりの民主制が崩壊し絶対王政が敷かれたので泣いた。
過去記事
任天堂株主総会レポート2016 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2015 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2014 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2013 | N-Styles
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