任天堂株主総会レポート2019
毎年恒例の任天堂の株主総会レポートです。
一つ前の記事でも記載している通り、長期休暇を取って旅行の行程の最後に株主総会を組み込んだ(というか、株主総会に旅行を追加した)結果、帰宅後に疲れ切って寝ていたので記事の掲載がだいぶ遅れてしまった。
今回は、古川社長が議長を務める最初の株主総会となる。
だいたい毎年天気が悪くて、今年も雨。
駅から任天堂までの道のりは交差点ごとに案内板を持った社員が立っている
毎年のお約束事項だが、現地での不正確なメモを元に記事を書いており、聞き間違いや誤解が含まれる可能性があるため、正確な情報を知りたい方は後日任天堂のサイトに議事録が掲載されるのを待つことを強くお勧めする。
いままでの総会との違い
任天堂の株主総会は、任天堂の研究開発棟の最上階にあるホールで行われ、役員たちの席と株主たちの席が向かい合う形で配置される。
今回は、役員たちの席の前に長テーブルが置かれ、大量のamiiboが並べられていた。
このamiiboについては、質疑応答の際に確認したところ、任天堂IPの活用の例として展示したとのこと。
去年の総会で「総会後に体験会をやってほしい」と提案があり、「ご意見として承ります」とスルーされていた。会場の用意やコスト面で無理があることは明らかだったが、できる範囲で努力した結果がこの展示だったのかもしれない。
あとは、宮本さんが珍しくメガネを装着していた。老眼が進んだのだろうか。
事業報告
まずは業務報告等が行われるが、内容は株主総会の招集通知に書かれているものとほぼ同じ。内容はざっくりとこのような感じ。
・Switchの販売は好調で第79期(2017年4月-2018年3月)の販売台数は1695万台
・ソフトウェアはスマブラSPが1381万本、ポケモンピカチュウ・イーブイが1063万本
・前期発売のマリオカート8DXも747万本
・サードパーティも含め、ミリオンタイトルが23タイトルで、ソフト販売は合計1億1855万本
・ミニファミコンとミニスーファミは合計で595万台
・ダウンロード販売等のデジタル売上は前期比94.5%増の1188億円
・モバイルとIP関連収入は合計で460億円(前期比17%増)
・グループ全体で約160億円の設備投資を実施
その後、質疑応答に入る。
主な質疑応答の内容は下記の通り。
後日、任天堂のサイトに掲載される情報のほうが正確だが、不必要な部分は割愛されることがあるのと、会場の雰囲気は掲載されないので、見比べると良いだろう。
Splatoon甲子園におけるニコニコ動画コメントでのハラスメント
株主「Splatoon2甲子園がニコニコ動画で流れ、コメントで選手の容姿に対する言及が多い。司会者やカメラもそれに合わせて反応してしまっている。人々を笑顔にする会社という意向にそぐわない。選手自身も不快感を表明している。任天堂はこの状況を容認しているのか、対策は?」
古川「任天堂は以前からゲーム大会を開催している。ゲームに関心を持っていない人たちにも大会を通じて関心を持ってもらうきっかけとなるよう、ゲーム大会を今後も続けたい。ご指摘の点も含め、魅力あるゲーム大会を開催できるようにしたい」
ゲームプレイヤーのコミュニティは、歴史的に男性比率が高く、ミソジニー(女性蔑視)の言動を容認している傾向が強いと感じている。時代の流れから考えると、10年20年の遅れがある。
具体的な言及は避けたが、総会で株主から指摘されて放置するわけにはいかないので次回大会からは何らかの対策が取られることだろう。
技術の後追いをしている?
株主「スマホゲームの参入やガチャ課金の導入、VRの導入など、最初は否定的な意見を出したあとで、遅く参入している。Googleやマイクロソフト、ソニーがクラウドゲームを取り組んでいて、今後はゲームハードがなくなっていくのではないかと考えている。クラウドでも遅れを取っているのではないのか」
古川「我々は今すぐに全てのゲームがクラウド化するとは考えていない。一方で、技術は確実に進歩してくのでクラウドは発展していくと考えている。 我々も環境の変化に対応が必要。技術が進歩しゲーム人口が増えるのであれば、ゲーム機専用ビジネスをする我々のゲームを届けられる人たちも増える。その中で、ハード・ソフト一体型のユニークな娯楽の提案を続けることが最優先事項だと考えている」
宮本「AR・VRにしろ、ネットワークにしろ、最後に参入した。後追いではなく、着手は一番最初にしている。お客様が快適に安心して遊んでもらえるか時間をかけて開発している。ラボのVRは価格も、使用時間も安心して遊べる感じになったのではないかと思っている。 今後も、安心できるよう仕上げてから発表しようと思っている。任天堂は他社にない、競合のないビジネスを作っていく。」
技術に対して貪欲ではあるけれども、納得の行く実装には時間がかかるので後追いっぽくなってしまうのが任天堂。
ただ、VRに関して、あの出来を宮本さんが良しとしているのは意外だった。まあ、年齢制限を緩和して楽しめるようにするのはあそこまで削ぎ落とす必要があったのは理解できるが。
アドベンチャーゲームの新作は?
株主「Switchが順調だが、10-20年語られるようなソフトの発売もリリースしてほしい。ファミコン探偵倶楽部は30年経っても今も心に刺さっている。今の任天堂にアドベンチャータイトルの制作ができる体制はあるのか?また、海外も含めた開発体制について聞きたい」高橋「任天堂内と、セカンドパーティと呼んでいるソフト制作会社をあわせて、世界規模で数千人の開発スタッフが居る。海外とのやり取りに関しては、日本語を話せる人もいるし、社内にもバイリンガルもいる。」
宮本「10年後にも恥ずかしくないソフトを作っている。 シリーズ物ばかりとも言われるがシリーズが続くと30年経てばブランドとして成立することもある。その他に、シリーズ1作になるようなタイトルも作っていく。
アドベンチャーゲームは正直厳しい。過去にはファミコン探偵倶楽部や新鬼ヶ島など、任天堂はいろいろ作ってきたが、今のアドベンチャーゲームはほとんどボイスが入る。海外でも発売するとなるとローカライズのコストが膨大になる。それに、若いゲーマーがアドベンチャーゲームに興味を持ってくれない。
アドベンチャーゲームのタイトルは、逆転裁判などの新しい試みもあるのでまだ期待はしているが、メインストリームとしてつくるのは難しいと思ってほしい」
ファミ探の新作は、ほしいけど無理だよなと感じてはいたが、宮本さんの口から明言されてしまった。
アドベンチャーゲームをメジャータイトルとして出すのは難しいし、任天堂もなかなか手を出せない状況ではあるが、インディータイトルの供給体制はだいぶ整っているので、唐突に意外な名作が出てくるかもしれない。
QoL事業はどうなったか?
株主「QoL事業の話が数年前に出ていて、睡眠に関するエンターテインメントを提供すると言われていたが、長い間新情報がなかった。 先日ポケモン社から発表されたポケモンスリープにつながったのか、それとも他にあるのか?」古川「だいぶ前になるが新規事業への挑戦として、生活の質を向上させる商品開発をしていることを発表した。現在も開発は継続はしている。まだ、任天堂の商品として胸を張って発表できる商品はできていない。ポケモンスリープは、ポケモン社のもので任天堂のQoLビジネスでの開発とは無関係」
QoL事業がやっと日の目を見た!と思ったのだけど、まさかの無関係宣言。
任天堂は無関係。
過去ハードのソフト資産活用
株主「NINTENDO64やGameCubeなどの過去作展開の戦略はどうなるのか。Switchのオンラインサービスで展開してもらえると期待して良いのか。20年ぐらい前の作品だと、ちょうど世代交代をしている時期。両親が若いときに遊んだソフトと言って親子で楽しめるようにすることは重要ではないか」 ※だいぶ割愛したが、カービィ関連作品の話や、カービィのサントラ中古価格高騰の話などもあった古川「この場で今後のクラシックハードなどの新たな情報を伝えることはできないが、現在ファミコンソフトを提供しているオンラインサービスの延長で提供する、他の方法で提供するなどの方法も考えている。過去作品を遊びたいという意見があることは我々も認識している」
2017年2018年の株主総会でもカービィ愛を披露した株主。3年連続のご指名。
愛が伝わるといいですね。
任天堂は検閲をしない
株主「別のプラットフォームでは、CEROなどの第三者機関以外の独自の表現制限をかけている会社があるが、任天堂はどうなのか」古川「任天堂は、自社製品やサードパーティのソフトの発売前にCEROやESRBなどの第三者機関に一任して客観的なレーティングをしている。プラットフォーム運営会社が恣意的な選択をすると、ゲームソフトの多様性・公平性を著しく阻害することになる。任天堂ハードでは、お子様が安心して遊べるよう、ペアレンタルコントロール機能で制限をつけられるようにもしている」
短いやり取りだったが、今回の株主総会での最高のファインプレー。
他社批判ではなく、任天堂の規制に対するスタンスの披露なのだが、結果として他社に強烈な皮肉をしている。
分かる人にはこのやり取りだけで古川社長の意図が分かるが、解説がないとちょっと難しい問題なので、細かく説明したい。
CEROはコンピュータエンターテインメントレーティング機構の略で、ゲームソフトのパッケージや公式サイトでよく見る、「CERO A」「CERO C」などのロゴを出している組織だ。ゲーム内の性的な内容や暴力的な内容を判断して推奨年齢を設定する第三者機関である。ESRBはアメリカにおける同様のレーティング機関。
質問をした株主が問題視しているのは、おそらくPS4ソフトで、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)がCEROよりも制約の大きな独自レーティングを導入し、過剰にゲーム表現を規制しているのではないかという疑惑が存在することを前提としている。
また、ゲーム専用機以外にも目を向けると、iOSやAndroidにおけるレーティングは各プラットフォーム独自のものが適用されている。
古川社長は、それを特に否定も肯定もせず「任天堂は第三者機関に一任して独自レーティングを持たない、独自レーティングの導入は良くない」とだけ主張している。
その中で、独自レーティングに否定的な意見を公式の場で披露したということは、任天堂は各国のレーティング機関に一任する体制を今後も維持するとゲーム開発者やゲームファンにアピールしたことになる。
独自レーティングの導入のなにが悪いのかについては、古川社長の言うように多様性・公平性を阻害するという点がある。ゲーム開発者はプラットフォーム会社の意向に沿ったゲームづくりをしなければいけない。顔色をうかがいながら、ゲームを作らなくてはいけなくなり、移植の際にそのプラットフォームの基準に合わせていく必要が出てくる。これはゲーム開発者にとって大きな負担となる。消費者側も「CEROの基準でレーティングされているし、その基準で子供が遊ぶゲームを制限できる」というシンプルな規制はわかりやすくて良い。
任天堂は、第三者機関にレーティングを外注することで、透明性をもたせて開発者の負担を減らすことがゲーム業界にとって最も良い運用だと考えているのだろう。しかし、他のプラットフォーム運営会社も同じ基準で行ってくれないとゲーム開発者の負担は軽減されない。だからこそ、このような痛烈な皮肉をしたのかもしれない。
ニンテンドートウキョウでのイベント
株主(私)「ニューヨークの任天堂ストアで任天堂の発表をみんなで見て盛り上がっている映像を見て羨ましく感じている。東京に直営店ができるが、同様のイベントを開催することはあるのか? また、今回の株主総会で眼の前にamiiboが並べられていることについてもご説明を」古川「amiiboを展示したのは、任天堂IPの積極活用の一環として紹介のために置いた。ちなみに、ここに168種類のamiiboを置いてある」
柴田「国内初の直営店ニンテンドートウキョウは11月に渋谷のパルコで直営店を開業する。
任天堂のハード、ソフト、アクセサリーだけではなく、任天堂のIPを使ったグッズの販売も行う。イベントも積極的に行う。国内の情報発信拠点にしたいと考えている。
同じ渋谷パルコにポケモンセンターも同時開業予定で、相乗効果の得られる店作りをしたい」
質問した株主は私です。
ニューヨークのニンテンドーストアと同様に、ニンテンドーダイレクトの生配信をみんなで見るイベントをするのかと聞いたつもりだったが、イベントをするとだけ回答された。イベントの内容は不明だ。
最近のニンテンドーダイレクトは海外の時間に合わせており、国内では店舗の営業時間外になる可能性があるため、実際に行われるかどうかは微妙なところだ。
それに、海外の任天堂はともかく、日本の任天堂はニンテンドーダイレクトをリアルタイムで視聴して大騒ぎする比較的高年齢層のゲームマニアに対して、割と冷たく、どちらかというと若年層のファン獲得に注力している雰囲気がある。ダイレクトのリアルタイム鑑賞会は東京では実施しないんじゃないかなあと思っている。
新卒向け会社案内冊子の公開
株主「新卒向けの任天堂の会社案内を見たが非常に内容が凝っていて出来が良い。ただ、入手しようと思ったら、オークションが必要で高額になっている。Webで見られるとありがたい」古川「優秀な人材を確保すべく、新卒向け会社案内は工夫をこらして学生の興味をひこうとしている。高く評価してもらえているのはありがたい。貴重なご意見として承ります」
以前、就活生に見せてもらったが、非常に凝った内容でマリオなどの自社IPを活用した良いコンテンツだった。過去分をpdfでWebに掲載するのはとても良いと思う。オークション転売目的のエントリーも減るだろうし。
まとめ
総会終了後、展示されていたamiiboは撮影OKだったので撮影会が始まった。
毎回、エレベーター渋滞が発生してなかなか会場から出られなかったので、ちょうどいい時間つぶしになった。
質疑応答は妙な質問が少なく、古川社長の回答も的確でとても良かった。
お土産はマリオのタオルとイーブイのクッキー。
質疑応答部分では省略したが、提携しているUSJの入場チケットを配ってくれという意見も出ていた。あまり高価なものはお土産として提供できないと却下されていたけど。
過去記事
任天堂株主総会レポート2018 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2017 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2016 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2015 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2014 | N-Styles
任天堂株主総会レポート2013 | N-Styles
2019年07月11日:なぜSwitch Liteは7月に発表され、TVモードが削除されたのか
2019年06月25日:ちょっと旅行に出ております
最新記事
2024年07月10日:任天堂とアクセシビリティ
2024年06月28日:任天堂株主総会レポート2024
2024年06月16日:10年ぶりにテレビ周りを刷新した話
2024年05月01日:次世代Switchの現実味のある予測(2024年5月現在)
2024年02月20日:3万アカウントの凍結を見届けた 趣味としてのTwitter(X)スパム報告
2023年06月25日:任天堂株主総会レポート2023
2023年06月21日:レビュー:ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム
2022年06月30日:任天堂株主総会レポート2022
2022年03月15日:Hue Sync Boxで映像とゲームを画面の外から強化する
2021年03月11日:シンエヴァを鑑賞した人たちを鑑賞した[ややネタバレあり]