選挙前に大量に現れるスパムは世論誘導目的なのか?
衆議院議員総選挙が実施されることが決まり、Twitter(現在Xと呼ばれているがこの記事ではTwitterと記載する)で同一内容の投稿を行う大量のbotを見た複数の人たちが「選挙に備えてアカウントを準備している」と主張をしている。

更に踏み込んで「外国勢力が世論誘導を行うためにbotを操作している」とまで主張している人たちもいる。
本当にそうなのだろうか?
選挙前スパムは本当に「世論誘導」なのか
Twitterでスパムbotの収集と通報を趣味としている(※)私が、それらのスパムbotを調査することにした。とりあえず3,000件ほどアカウントを収集した。
※趣味のスパム報告に関する詳しい情報は、過去にまとめた記事を参照していただきたい。
3万アカウントの凍結を見届けた 趣味としてのTwitter(X)スパム報告

結論から先に言えばこれらのスパムbotは「アカウント販売業者が育成中のアカウント」の可能性が非常に高く、政治目的に使われる可能性は限りなく低い。
判断した理由を3つ挙げよう。
1.選挙と無関係に何年も前から同様の活動が見られる
Twitter側のトレンドは露骨なスパム投稿を弾くロジックがあるようであまり話題になることはないが、Yahooリアルタイム検索だと同一ワードを投稿するbotが同時に稼働すると無意味なキーワードが上位に上がってくることが週に何度もある。
最近はAIで投稿文を自動生成するタイプのものも増えていてトレンドで上がってこないことも多い。
そもそも、今回話題になった「XXX円損した」(数字部分はランダム)と投稿するbot群も昨年末から稼働していて解散の話が具体化してから出てきたわけではない。
たまたま解散総選挙の話題がタイミングで存在に気づいた人が根拠なく関連付けて騒いでいるだけの話だ。
これらの同一内容を大量のアカウントから投稿するbot群は、アカウント販売業者が保有している可能性が高い。
なぜなら、同様の挙動をするbot群の観察をしていると投資詐欺・アダルト・薬物販売・水商売求人などの複数の種類のアカウントに変化する事が多いからだ。これらの種類の異なるアカウントを一つの集団が運営していることは考えにくく、アカウント育成者と、アカウントの使用者は別組織であると考えるほうが自然だ。
アカウント作成日が直近で業者自身が作ったものも多いが、古い投稿は通常のユーザによる人力投稿なのに、途中から急に定型文の自動投稿に変化している古いアカウントも多く、アカウント乗っ取りが行われている可能性が高い。
2.一部が特定目的のアカウントに変化している
実際に「XXX円損した」と投稿していたbot群の状況を観察してみた。
まだアカウント作成後間もないせいか、定型文の投稿ばかりのアカウントが大半だ。
だが、ごく一部で名前が「手押し」や「ドラッグ」「速達業者」のような単語を含む名前に変化し、怪しげな投稿をしたり、プロフィール欄に怪しげなURLが掲載されたものが現れている。


違法薬物販売を示す隠語がツイートやプロフィールに見られ、販売価格を提示したツイートを投稿するアカウントも複数見られる。ただし、Twitterはこれらのアカウントに対する対処が非常に早いため、瞬く間にアカウントが凍結されたり、日本からのアクセスを遮断されたりする。

3.変化先のアカウントが多彩
薬物系の他にも、アダルト広告系botや金貸しbotに変化しているものもあった。
さらに、宣伝目的ではない不可解な投稿を行うアカウントに変化したものが少しだけあった。
詳細を書くと色々差し支えるのでかなりぼかして記述するが、いわゆる怪文書(一枚の画像にやたら情報量が詰め込まれ、目に優しくない色使いで独自用語を駆使した難解な文章が記述されていて、特定個人に対する攻撃性の高さと作成者の異常さだけ伝わるやつ)を無関係な企業アカウントへのリプライで投稿するbotになっていた。これを見つけたときはだいぶ怖かった。
アダルト広告はともかく、さすがに怪文書アカウントと薬物系のアカウントと運営者は異なるだろうし、世論誘導目的の海外勢力のはずもない。
スパムの正体は「業者の在庫」
これらの現在客観的に確認できる情報から考えると、今回のbot群は「海外勢力による世論誘導」ではなく、アカウント販売業者の仕業と考えるほうが自然だ。
そもそも、これらのスパムbotが「外国勢力による世論誘導」であると推測するための材料すら見当たらない。少なくとも、自分はそういった投稿を扱うように変化したアカウントは見つけられていないし、スパム投稿以前の過去の投稿は乗っ取り被害者のもので外国語で投稿していたとしても乗っ取り犯の属性とは無関係だ。
また、そんな「大量のbotを駆使して世論誘導するぞ」と意気込んでいる組織が、こんなに容易に発見・特定できるような、雑な手法を使うだろうか?
現時点で観測できる事実から推測できることは「業者が大量のアカウントを育成・転売している」ぐらいだ。そこに政治的意図や国家レベルの工作を見出すのは、陰謀論に近い飛躍と言われても仕方がない。
しかし「これ、ただのスパム業者じゃね?」という指摘はスルーされ「海外勢力による世論誘導」というストーリーが簡単に広まってしまう。
不安が善意を暴走させる
ある意味仕方がないのだが、不安な状況に置かれた人間は「分かりやすい敵」を欲しがる。急に決まった選挙で高まる緊張感の中で、目的のわからないスパムが大量に出てくる。その2者になんの関連性もないが、「何者かが裏で操作している」という情報が追加されると不安の種が一つにまとまり納得しやすくなる。
さらにTwitterには同じ傾向の情報だけ集まってくるエコーチェンバー効果がある。
いったん「スパムbotは海外勢力によるもの」と考えてしまうと、事実や証拠の優先度は下がり、自説を補強する情報だけが目につくようになる。
本人は脅威に対する注意喚起であり、自身の善意と正義に基づく行動なのだろう。
この「善意が暴走する構図」は、実は過去にも何度も繰り返されてきた。
いまから100年ほど前、1923年の関東大震災直後に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という根拠のないウワサが広まり、多くの朝鮮人や無関係な日本人までもが自警団によって殺害されるという惨事が起こった。
大事なのは、このウワサが悪意や愚かさで発生したわけではないという点だ。恐怖や混乱の中では、誰でも合理性を失う。いまでも、大きな災害や事件の後に善意でデマを拡散する人たちがいるが、彼らは善意や正義に基づいてそれらの行動をしている。
陰謀論と現実の情報戦は別物
誤解してほしくないが、私は「SNSでの世論誘導は存在しない」と主張しているわけではない。
実際にロシア産の偽ニュースサイトがあったり、アメリカの大統領選での介入があったという報道もある。日本でも少なからずそういう行動はあるだろうし、Dappiのように日本企業がデマを使って議員を攻撃したり世論誘導をしていた事例もある。
問題は、検証せずに今回のスパムbotも政治目的と断定する行為だ。疑うことと、決めつけることはまったく別物である。
分かりやすい話に飛びついて拡散する前に、「その話は本当に検証されたものか?」と一度立ち止まるだけで、必要のない分断や誤解は防げるはずだ。
不安の拡散は世論誘導になりえる
スパムbotは確かに迷惑だし、放置すべきではない。しかし、それを「分かりやすい敵」の物語に押し込めて消費することは、別の問題を生む。
「海外勢力の仕業だ」というストーリーは刺激的で拡散しやすいが、一度その物語が共有されると、次は「それはどの国か」、「どの政党とつながっているのか」という話に発展する。
刺激的な物語に次第に尾ひれがついて、事実であるかのように拡散され、人々の投票行動が歪められていく。
それこそが、まさに世論誘導ではないだろうか。
[今回の記事はここで終わり。以下はスパム報告に関する近況報告]
趣味のスパム通報の近況報告
ついでなので、前回の記事以降のスパム報告の経過をまとめておこう。
前回の記事にも書いているように定期的にスパムアカウントを収集し、自作のスパム通報プログラムで毎日24時間通報を続けている。
凍結確認アカウント数は、のべ35万件になった。
最近は「LINE誘導型投資詐欺スパム」と「メルカリアフィリエイトAIスパム」を重点的に調査・通報している。
リプライゾンビは?と聞かれそうだが、あれは機械的なアカウント収集が難しいし通報があまり効かないので自分の手に余る。だれか他の人が頑張ってほしい。
LINE誘導型投資詐欺スパム
青バッチ認証済みのアカウントへの誘導や、LINEアカウントへのリダイレクトURLを投稿し、ツイート内容に無関係のトレンドワードを盛り込んでいる。そのため、検索ノイズになり大変邪魔な存在だ。
青バッチ認証済みアカウントを「親アカウント」、そのアカウントに誘導するその他のアカウントを「子アカウント」と呼んでいる。
親アカウントは10年以上使われているものが多く、他人のアカウントを乗っ取って使用しているケースが多いようだ。それなりに数があるが同時に活動するのは数十アカウント程度。認証済みアカウントなので凍結しづらいが根気よく通報すれば割と凍結する。
言葉巧みに詐欺誘導しなくてはいけないはずの親アカウントで、日本人として不自然な姓名を名乗っていたり、おかしな日本語の文章を投稿することから運営者は日本語話者ではなさそう。
子アカウントはアカウント数・投稿数が非常に多く、直近24時間以内に投稿した重複を除外したアカウント数を数えると2000を超えることもある。凍結済みも含めるとアカウント数は10万を超えるだろう。だが、露骨なスパム行為なので凍結も早く、私が認識して通報するまでの間に凍結が完了していることも多い。1アカウントごとの寿命はおそらく1週間程度だろう。
2026年後半になってから子アカウントのアカウント名を「秘書アカウント」にして同じアイコンにしているケースが多くなっている。

大量のアカウントやTwitter青バッチ認証費用を考えるとそれなりのコストは掛かっていそうだが、資産を持っている人が一人でも詐欺に引っかかれば数百万、数千万円単位で奪取できるだろうから回収はできているのだろう。
この大量のアカウントは記事前半で書いたアカウント業者からの購入だと思われる。アカウント乗っ取りによる転生も多く、休眠中だった日本の企業アカウントが唐突に投資系の投稿を始め、LINEアカウントに誘導する様子を複数回確認している。
乗っ取り被害のアカウントの多くは年単位で放置されていたものだが、乗っ取りに気づかず被害者本人の通常投稿とスパム投稿が交互に行われているものや、被害者が乗っ取りに気づいてスパム投稿を消してパスワードを変更したと投稿している人もいる。
10年以上放置しているアカウント乗っ取りも見られるので、アプリ連携による乗っ取りではなくどこかで漏洩したメールアドレスとパスワードのペアを使って乗っ取ったものが多いのではないだろうか。それならば、二段階認証を設定していれば防げるはず。
「LINE誘導型投資詐欺スパム」の投稿にはたまに「任天堂」の文字列が含まれていて検索ノイズになるので、任天堂株主としてはなんとしても絶滅させたいと思っているが、なかなか消滅してくれない。露骨なスパムなので通報に対する凍結ペースが早いが、それ以上に新しいアカウントが毎日大量に生まれている。
Twitter上でのスパム通報が趣味なので、LINE側にはあまり通報をしていないのだが気が向いたときに通報をしている。通報しようとしたときに、すでに凍結済になっているアカウントがたまーにあるので、LINEも対応はしているようだが、これだけ大量に長期に渡って詐欺行為が続いているのだから、まだまだ対処が甘い部分があるのだろう。
ねえ、LINEさーん、こいつなんとかなりませんかー??
メルカリアフィリエイトAIスパム
もう一つの「メルカリアフィリエイトAIスパム」は犯人もわかっており、長い間いろいろ手を尽くしているのだが、なかなか凍結も活動停止もしてくれなくて非常に困っている。
アカウント数は数百あり、それぞれのアカウントに性格を設定しているようでAIを使った文章で、設定した性格に従ったメルカリURLと紹介文を絶え間なく投稿している。たまに他人のバズ投稿へのリプライをしたり、メルカリURLなしの日常投稿も行っている。
メルカリのURLには必ず「afid=7908875457」がついている。

Twitter検索を使うのであれば「filter:links "afid=7908875457"」で検索するといい。
大量のbotで24時間絶え間なく投稿しているせいで投稿数が尋常ではなく、さらにトレンドワードを投稿内容に含める機能も含まれているのでトレンド汚染の被害がひどい。
一応Twitter側もある程度対処していて、Twitter検索からは除外されているアカウントも多い。それらのアカウントもYahooリアルタイム検索では出てくるのでYahooリアルタイム検索を使う際にかなり邪魔になる。
「afid=7908875457」以外にもいくつかメルカリのURLを延々と投稿する別作者のbot(※)が存在していて、もはや人力で投稿されたメルカリのURLを探すほうが大変なレベルになっている。人間の活動時間を無視して真夜中でも昼間でもほぼ一定量のメルカリURLが投稿されている。投稿数が減るのはTwitterが障害を起こしたときぐらい。メルカリの中の人たち、この異常事態に気づいていないの?
※投稿数が多いものだと「afid=8005699925」と「afid=8430262231」などがある。
Yahoo!リアムタイム検索「http://jp.mercari.com/」の検索結果

先程、「アカウントに性格を設定している」と書いたが、このbotの制作者はなかなかのキレ者で特定の政党に入れ込んだ設定のアカウントも各政党ごとに複数用意している。各政党の支持者を装う投稿をしているため、AIによる投稿と気づかずにフォローしたりRTしている人たちも多く、「このbot作者なら世論誘導もやりかねんな」と思ってしまう。

AI投稿で自然に見せているせいなのか、びっくりするぐらい凍結しない。あらゆる方法を使って通報してもめったに凍結しない。botの作者はなんか裏技でも使ってるのか?
アカウントの作成は自力で行っているようで、日付の古い業者からの購入や乗っ取りによるのものではなく登録日が新しい物が多い。投稿量が膨大で作成して1ヶ月で1万近く投稿していたりする。

これはメルカリスパムbotの一つが30日間投稿している件数のグラフ。普通のアカウントなら曜日や時間帯で変化するのにほぼ一定のペースで1ヶ月間投稿を続けている。
前述のようにこれらのbotの作者はわかっている。いまは鍵アカウントになっているが、プロフィールに「メルカリ関連のBOT複数運用しています。」と堂々と書いている。あえてアカウント名は記載しないが検索すればすぐに見つかるはずだ。かつては、自身が動かしているbotのアカウントも公開していた。そして、そのbotでは検索汚染を続けている数百のbotと同じアフィリエイトID「afid=7908875457」を使っていた。
最近はこれらのbotがメルカリURLやAIによる日常投稿の他に、「フォローしてRTすれば応募完了」系の懸賞にも積極的に参加している。このbot作者、貪欲すぎる。
ここまで露骨にやってたらメルカリがなんか対応してくれそうだが、ずーっと同じアフィリエイトIDで活動している。さすがに利益もないのにコストを掛けて大量のbotを動かしたりしないだろうから、メルカリはこいつにアフィリエイト収益を渡し続けているようだ。いいのか?
私も放置しているわけではなく、1年前にメルカリの問い合わせ窓口に対し、こいつが運営するbotのリストと活動内容、アフィリエイトIDを通報した。しかし、それ以降なんの反応もないので無視されたようだ。自分以外にも通報している人がいるようなので、気づいていないわけはないのだが。
ねえ、メルカリさーん、こいつなんとかなりませんかー??
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