美味すぎるものを食べるとバカになる(ローストホースにて)

メインディッシュであるローストホースの写真をあまり撮っていないのは、今回の記事タイトルのとおり、食べる途中で頭が悪くなったためである。

さて、うまいものを食べるとバカになるとはどういうことだろうか？
最初に出てくる馬肉が入ったスープ「肉吸い」や、馬肉5点盛りを食べていた時点では、みんな知性があった。

久しぶりの再会を喜び、世間話をしたり、年末年始の出来事を語り合う余裕があった。
料理の感想も「ああ、この出汁はシンプルだけど美味しい。肉の風味が引き立ってる」「すごいなー、この肉はあえて半解凍にしてるんだ。口の中でとろけていく」と文法的に正しいことを言い、出てくる料理を等分に分け合う理性もあった。

泡立てた黄身に包まれた馬ユッケの帆立添えが出てきたあたりで、みんなの頭のネジが緩んでしまった。
感想はどんどんシンプルになっていき「うまい」「やばい」の連呼がはじまる。
焼きあがったエリンギを切り分けると、中から汁気が出てくるのをみて「エリンギの肉汁」「エリンギは肉だ」と言い出す。
焼きあがったあとで温度を落ち着かせるためにアルミホイルに包んだままの馬肉を見て「アルミホイルでも食えそう」と漏らす。

知性の低下はコースが進むにつれて悪化していき、「なるほどなるほどー」としか言わない人も出てきた。
もはや感想なのかよくわからない「なんかもうあれだ」という発言も飛び出す。

知性がないので、ガンガン写真を撮るし、切り分けている最中でも平気で箸を伸ばす。

この頃になると、料理を食べたあとに口から出る言葉は感嘆符ぐらいで、言語の体を成していない状態になる。
「あー」「うあー」とうめき声のような音を発しながら恍惚の表情を浮かべる人々の中で、かろうじて日本語になっている「うまい」「やばい」「さいこう」「なるほど」が聞こえてくる。

とにかくうまい、うまいから、そのことを感想にしてアウトプットしたい。でも、脳の演算能力は味蕾から伝わる情報を海馬に留めることに全力を尽くしており、言語野の処理が無視される結果、頭が悪くなるのだ。
そのうち「口に入れて噛むと味がしてうまい」という単純な事実を発言する者まで出てきた。

そして、コースが終盤に到達する頃、バカになった人々が漏らす料理の感想が、本日の最低地点に到達してしまった。

「味がする」

耳を疑った。
驚くことに、最高の料理を食べた感想がこれである。

「味がする」

嘘偽りない真実であり、否定出来ない事実である。もはや味の評価すら放棄している。
それをあえて口に出して言う必要があるのだろうか。

そして、我々はひとつの結論に到達した。
どんなにうまいものを食べても、ちゃんと感想が言える彦摩呂はすごいと。

なお、ローストホースは前述のように会員制だが、オープン1年後には一般客も入れるようになるのでご期待ください。