スプラトゥーン甲子園・シオカライブ・Sagakeenを経て、任天堂が得たもの
2015年5月28日に発売されたSplatoonは、1月に最後のブキ、ステージの配信を終えた。時を同じくして、"スプラトゥーン甲子園"の全国大会決勝とライブイベント"シオカライブ"を開催、佐賀県とのコラボレーションイベントSagakeenが終了し、Splatoonはひとつの区切りを迎えた。
多くの参加者を集めたスプラトゥーン甲子園
スプラトゥーン甲子園は、九州(福岡)・北海道(札幌)・東海(名古屋)・近畿(大阪)・東北(名取)・中国(広島)・四国(高松)・関東(東京)での予選を経て、幕張メッセで全国大会が行われた。
写真は私が出場した(そして初戦敗退した)九州大会で撮影したもの。
このスプラトゥーン甲子園は、賞金こそは出ないもののいわゆる「eスポーツ」のカテゴリに属する大会といえるだろう。国内で開催されたeスポーツの規模としては破格のスケールとなった。
「闘会議2016」2日目、間もなく開幕だ。
10時からスプラトゥーン甲子園関東大会Cブロック、13時頃から全国決勝大会がプレイボールする。応募チーム3000以上の頂点はどのチームだ!?https://t.co/mpEuyF5MTW pic.twitter.com/bruIivdoIM
— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2016, 1月 31
応募した3,000チーム(12,000人)以上の中から抽選で、地方予選6大会にそれぞれ40チーム、関東予選に196(64チーム×3ブロック)チーム、合計で参加432チーム、1,728人が出場した。出場のための抽選倍率は7倍以上である。
いわゆるeスポーツの国内大会において、応募人数が1万人を越えた大会など聞いたことがない。しかも、長い歴史を持つ続編タイトルではなく、従来のキャラクタ等を流用しない完全新規タイトル、いわゆる"新規IP"での数字だ。
大会開催が発表されたのは8月上旬、発売から3ヵ月も経っていない時期であり、最初の九州予選は9月の開催だ。このスピード感もSplatoonの特徴だ。
現地にいた人たちやWeb経由で大会を鑑賞した人たちにはわかると思うが、参加者の層が非常に厚い。従来のeスポーツの参加者は圧倒的に20-30代男性が多かったのだが、スプラトゥーン甲子園予選には家族連れが多く出場し、女性の参加者も多かった。また、スプラトゥーン甲子園と平行して、次世代ワールドホビーフェアにおいて「スプラトゥーン最強小学生軍団決定トーナメント」も開催されている。
ポケモンのように10年を超えて長く愛されたコンテンツは、初出時に小中学生だったプレイヤが親世代となり、親子二代にわたって楽しまれる姿がよく見られる。スプラトゥーン甲子園は、発売から短期間で、家族みんなから愛され、幅広い層に受け入れられるゲームにできることを知らしめるものだった。この幅広い層での受け入れは、新規IPではなかなか得られないものだ。
大会は大成功と言えるだろう。
すべての試合が終わってからニコ生ではスタッフロールのフォーマットで、全チームの名前が流れた。わがチーム「イカメン隊」の名前もあった。
なにこのサプライズ演出…。泣くわ。
熱狂に包まれたシオカライブ
Splatoon甲子園の関東予選と全国大会決勝の間には「シオカライブ」が開催された。
ゲーム本編に出てくるアイドルユニット"シオカラーズ"が生バンドの演奏を従えてステージに登場するミニライブだ。
初音ミクのライブなどでも使用される透過スクリーンにシオカラーズが投影され、ゲーム内容で使用されるイカ語と日本語字幕を駆使してMCまで行う。
現地は会場のキャパシティを大きく超え、ステージ前は満員電車並みの混雑で、シオカラーズの姿が見られない人も多かったようだ。
別のステージでもライブビューイングが放送され、そちらも大勢で賑わっていたようだ。
現地組のツイートや、ニコ生経由でのコメントを見ると、ライブステージの盛り上がりっぷりは"熱狂"という言葉で表現するのがふさわしい。今回のステージのためにモデリングし直されたアオリとホタル、ライブ向けの新アレンジの楽曲、新たに作られた振付を目の当たりにしたファンの口から漏れるのは、圧倒的な感謝の言葉。
私も、発売前から追いかけてきたゲームがこれほどまでに支持されるに至ったこと、長年愛してきた「人々を笑顔にする会社」がその目的を有言実行したこと、そしてこの感動的なステージを前社長の岩田さんが見られないこと、いろんなことが頭の中を駆け巡り、涙が止まらなくなった。
スタッフロール内に岩田さんの名前も刻まれた、ヒーローモードのエンディング曲「マリタイムメモリー」
しっとりとした歌に乗せて、ステージ上に設置されたニコ生の画面に流れる岩田さんへのコメント。"いわっちありがとう"
こんなの泣くに決まってるだろ…。
地方に貢献したSagakeen
先日最終日のレポートをした佐賀県唐津市呼子町とのコラボレーションイベントSagakeenは人口5,000人弱の呼子に、のべ13,577人の来場者を呼びこむ(呼子だけに)結果となった。
Sagakeenイベント最終日、呼子に唐津焼の皿を買いに行った | N-Styles
2ヶ月間に渡って開催されたSagakeen呼子のイカすフェスが本日17時に終了。本日の来場者は過去最高の877人、総来場者は13,577人でした。北は北海道、南は沖縄から沢山のお客様にお越しいただきまして誠にありがとうございました! pic.twitter.com/3HoZVsVIqu
— Sagakeen 呼子のイカすフェス (@SagakeenYobuko) 2016, 1月 31
1日平均にすると200人強の来客者にしかならないので、「交通の便が悪い地方都市にしては」というただし書きは必要になるだろうが、大成功と言えるだろう。
コラボイベントは東京タワーでも開催されており、呼子コラボショップが開いていたのはわずか1週間だが呼子とほぼ同数の14,000人の来場者を集めている。
隣の福岡県からのアクセスも相当悪いのに遠方からの来場者も多かったようだ。前日のシオカライブを見てから最終日の呼子まで飛んできたファンまでいて、家族連れも多く、ゲームの事をよく知らない地元からも歓迎されているような温かいイベントだった。
自社IPのゲーム外での活用は、岩田前社長が生前繰り返し語っていたことだ。
Sagakeenやシオカライブの成功はその実践といえる。
任天堂キャラクターを、ビデオゲーム・プラットフォーム以外の場でも、より多くの人の目に触れるようにしていくことを目指していきます。
2014年1月30日(木) 経営方針説明会/第3四半期決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡
任天堂が得たもの
スプラトゥーン甲子園やSagakeenは、Splatoonが多くの人達に愛されていることを示した。
一方、シオカライブは人々の心に深く突き刺さったことを示した。
広さと深さ、このふたつを同時に手に入れることは任天堂がどこまで想定したことだろうか。
E3で発表した時点で反響が大きく(※)、発売後に期待以上の成果を得られることは当然予想していただろう。(※社長が訊くSplatoon「予想以上の反響をいただきまして、うれしかったです。」)
だが、年内に国内137万本・世界406万本の売上を記録し、数々のイベントがここまでの成功に収めることは想定していなかったのではないだろうか。
スプラトゥーン甲子園の閉会式において、イカ研究員こと野上プロデューサは涙を流し、言葉に詰まりながら来場者や全国のイカファンに感謝の言葉を述べた。この成功が想定内のものだったのであれば、もっと冷静になっていただろう。予想を遥かに超える反応を得られたからこその涙だったのではないか。ニコ生の画面を埋め尽くすコメント、アンケートでの「とても良かった 98.5%」いう数字もそれを物語っている。
自分も当然のようにつられて泣いた。
Splatoonはファンから深く、深く愛されている。そして、これからも愛され続けるだろう。
任天堂は今後10年は戦える強力なIPと、そのファンを手に入れたのである。
2016年02月16日:オープントップバス(福岡市民の大半が見たことがあるけど乗ったことがない乗り物)に乗ってみた。
2016年02月01日:Sagakeenイベント最終日、呼子に唐津焼の皿を買いに行った
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