山内社長、ありがとう。さようなら。
子供の頃から大好きな会社がありました。
今でも大好きです。
その会社が生み出す商品が、長い間、ぼくの心を掴み続けています。
父が買ってきてくれた魔法の箱。
それをつないだ小さな14インチのブラウン管は、無限の世界への窓になりました。
魔法の箱の名前はファミリーコンピュータ。
任天堂の、あなたの思いが詰まった玉手箱です。
少しおとなになって、しばらくゲームから離れていたけど、
NINTENDO64がまたぼくを任天堂の虜にしました。
当時、インターネットは今よりずっと狭い世界で、少数のファンが情報交換をしていました。
任天堂の魅力をもっとみんなに知ってもらいたい、そう思ってサイトを立ち上げたのは15年以上前の話です。
任天堂のこと、あなたのことをたくさん調べました。
大学在学中に花札の会社を継ぎ、何度も危機を乗り越えながらも、
世界的なエンターテインメント企業に育て上げたその手腕は誰もが認めるものでした。
本当か嘘かわからない、あなたのカリスマ性に関するエピソードをたくさん知っています。
だけど、あなたの偉大さを示すのに、そんなものは必要ありません。
あなたが何を成し遂げたのか、どれだけの人に影響を与えたのか知っていれば十分です。
30代以下の日本人で、あなたの影響を全く受けていない人間がどれだけいるでしょうか。
多くの人があなたが生み出した製品や、あなたの影響で生み出された製品に触れ、笑顔を作ったことでしょう。
一人のファンとして、あなたの社長としての最後の数年間をずっと眺めていました。
あなたの、社長としての最後の仕事だった後任社長選びは見事でした。
ワンマン経営で、直感で動く一族経営の社長が退いて、その後任が、
外の会社から引っ張ってきたプログラマ出身のまだ若い男を中心とした
集団経営体制だなんて、一体誰が予想したでしょうか。
それから数年、任天堂は大きく飛躍しました。
もちろんそれは、岩田社長の力による部分が大きいでしょう。
しかし、その下準備をして、役者を揃えたあなたの影響力も相当なものです。
だけど、謙虚なあなたはその成功を褒め称えても「運が良かっただけ」と言うでしょうね。
浮き沈みの激しい業界だからいちいち結果を気にするなと常々言ってましたから。
いま、任天堂は全盛期の勢いを失っています。
あなたはその様子を見て心配していたでしょうか。
いいえ、きっと冷静にその成り行きを眺めていたでしょうね。
「失意泰然、得意冷然」
― 運に恵まれない時は慌てずにどっしりと構えて努力しなさい、運に恵まれたときは運に感謝して冷静に努力しなさい。
それがあなたの座右の銘でした。
業績が悪化する中で行われた株主総会で、株主から質問を受ける岩田社長の姿は、実に泰然としていました。
あるがままを受け入れ、今できることを努力する強い意志を感じました。
あなたの意志は、任天堂の中に息づいています。
というか、50年以上社長の座にいたあなたの魂が染み付いてて、取り除くのはもはやムリでしょう。
だから安心して旅立ってください。
ありがとう。そして、さようなら。
任天堂前社長 山内溥さん、85歳、2013年9月19日逝去
※上画像はNHKスペシャル 新・電子立国〈4〉ビデオゲーム・巨富の攻防より引用
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