2012年06月21日

アメリカ軍の無人機はパキスタンの女子高生を殺したのか?


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いきなり殺人機械が飛んできて、普通の女子高生が爆殺されるというセンセーショナルなblog記事が話題になった。
※リンク先は遺体画像等が掲載されているので閲覧注意。別に見なくていいです。

2012年4月29日。ひとりの女子高生に向かって、いきなり殺人機械が飛んで来た。その殺人機械は、なぜか彼女を「テロリスト」と認識する。

そして、ミサイルを撃って、彼女を爆殺し、肉片として飛び散らせるのである。ミサイルは2発撃たれた。彼女は、即死だっただろう。

いきなり殺人機械が飛んできて、普通の女子高生が爆殺される。これは現実だ。

この記事を読んで、なんとなくおかしいと思って調べようとしたが、Twitterやはてなブックマークですでに調べている人が複数いた。

結論は、端的に言えばデマだった。
念のため、私も複数のソースにあたり、確認したところ同じ結論に達した。これはデマだ。

同じ日付で、パキスタン関連報道を探すとサーチナのニュースにあたった。

パキスタンメディアの29日の報道によれば、米軍の無人機が当日午後、パキスタン北西部の北ワジリスタン地区にあるミランシャーを空襲し、少なくとも3人のパキスタン人が死亡し、2人が負傷した。中国国際放送局が報じた。

報道によれば、空襲は北ワジリスタン地区のミランシャーで行われ、米軍が地元政府の運営する女子高校にミサイル2発を発射した。目撃者は当時、4機の米軍無人機がこの地区の上空を旋回していたと語った。


(米無人機がパキスタンの女子高にミサイル2発を発射 3人死亡 2012/04/30(月) 21:39:56 [サーチナ])

遠隔操作の無人機(プレデター)が4月29日に攻撃を行ったことは間違いなさそうだが、亡くなったのが女子高生だとは書かれていない。

Lethal Presence of an MQ-1 Predator drone in Afghanistan

他のメディアではどう報じているのだろうか。

パキスタン北西部の部族地域の北ワジリスタン地区で29日、廃校となった女子校の校舎に米軍の無人機による爆撃があり、武装勢力4人が死亡、5人が負傷した。地元当局者が明らかにした。ロイター通信によると、無人機爆撃は3月30日以来。
(米無人機で廃校爆撃、4人死亡 パキスタン北西部 - MSN産経ニュース)

えっ。
女子高生が亡くなっていないどころではなく、そもそも生徒が通う女子高ではなく「廃校となった女子校の校舎」らしい。

ほかのソースを探してみるとWikipedia英語版に情報があった。

29 April 2012: US drones fired missiles at an abandoned girls school in Miranshah, North Waziristan killing 4 suspected militants and wounding 3 others. Most of the killed were Arabs. A local resident, Haji Niamat Khan, said more than two dozen militants were living in the school when it was attacked.
(Drone attacks in Pakistan - Wikipedia, the free encyclopedia)

日本語に訳すと「2012年4月29日:アメリカの無人機がワジリスタン北部Miranshahにある廃校になった女子校を攻撃し、過激派と思われる4名が死亡、3名が負傷した。死者の多くはアラブ人だった。地元住民のHaji Niamat Khan氏は、その攻撃の際に2ダース(24名)以上の過激派が根城にしていたと語った。」といった感じだろうか。

Wikipediaの元ソースはトリビューン誌のこの記事 Drone strike kills four suspected militants in North Waziristan – The Express Tribune

事件の概要は(当然だが)Wikipediaと同じで、その上で無人機での攻撃はパキスタンの主権侵害だという意見を取り上げている。当然ながら女子高生が亡くなったという話も、生徒がいる学校が攻撃されたという話もない。

本当に女子高生が亡くなったのであれば、それをまっさきに報じるだろうから、少なくともこの日に冒頭のblogのようなエピソードは存在しなかった可能性が高い。

最初に取り上げたblogやサーチナの記事と、事件当時に書かれた記事のどちらを信じるかは人それぞれだろうが、私は後者を支持したい。

それには理由があって、この地域では廃校になった女子高が多数存在するのである。

Girls in school in Khyber Pakhtunkhwa, Pakistan

今回の攻撃が行われたのはパキスタンの北西部にあるワジリスタン地域で、このエリアでは現在「ワジリスタン紛争」が起きている。

紛争の細かい背景はWikipediaを見てもらったほうが早いので省略するが、アメリカの敵であるアルカイダの潜伏場所としても知られ、アメリカ軍によってウサマ・ビンラーディンが殺害されたのもこの地域である。

Wikipediaに以下の記述がある。

ターリバーンは、同地域でシャリーアに則った独自の統治を開始し、男性の髭を剃ることを禁じ、ヴェールの着用の強制、女子の教育を禁じて女子校を破壊した。イスラーム法に違反したとされる者は、ターリバーンのメンバーにより、「ムチ打ち」や斬首などの私刑を受けた。

一応Wikipedia以外のソースも探すと以下の記事があった。

スワト渓谷の武装勢力は、イスラム教の強硬指指導者マウラナ・ファズルラ(Maulana Fazlullah)師が2年前から推し進めるシャリア法強化運動に従い、女子校122校を含む191校を破壊。生徒6万2000人が、学ぶ場を失った。
(武装勢力がペシャワル近郊の女子校を爆破、死傷者はなし パキスタン 写真4枚 国際ニュース : AFPBB News)

他にもいくつか記事が見つかり、この地域で多くの女子高が廃校になっていることが分かる。

と、ここまでデマだと書いておいて勘違いしてほしくないのだが、「女子高生が死んでなかった、良かった良かった」という話ではない。

無人機の攻撃での市民への誤射がないかというと、そういうわけではなく、先ほどのWikipediaページにも「Civilians reported killed: 482 – 832 / Children reported killed: 175」と、民間人や子供にも多数の死者が出ていることが記載されている。これは看過できない事象だ。

ただ、無人機の攻撃で民間人死者も発生していることに対する批判には正当性があるものの、「殺人機械が女子高生をテロリストと認識して攻撃し、肉片を飛び散らせた」という架空のエピソードを事実であるかのように偽って危険性を知らしめるのは悪手。ウソを元にどんなに立派な意見を述べたとしても、泥沼にビルを建てるようなものだ。

そもそも機械が自動認識していると思わせるような文章は誤りで、この無人機は自動操縦ではない。プレデターは遠隔操縦の飛行機だ。ミサイルの発射ボタンを押すのは無人機械ではなく兵士である。

民間人誤射は自動操縦だろうと遠隔操縦だろうと直接操縦だろうと、同じく非難されるべき行為だ。遠隔操縦を糾弾するのであれば、架空のエピソードをでっち上げるのではなく、直接操縦と比較して遠隔操縦のほうが誤射率が高いことを数値で示したほうがよほど建設的だ。

今回の記事を書く際に検索していたら海外blogで類似した記事をいくつか見つけたので、冒頭のblogの著者もそれを鵜呑みにしたと推測している。「現実は小説よりも奇なり」というが、その"奇"のなかにもホンモノとニセモノがあるので、情報を拡散する際には気をつけましょうというお話でした。

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