2010年06月29日

「バーチャルボーイは倒れたままなのか?」([Ni]第一号掲載・2007年)


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2007年末に友人が作成した同人誌[Ni]の第一号に4ページほど寄稿させていただいた。(関連記事:ゲーム雑誌「Ni」創刊号を冬コミで頒布)

タイトルでバレバレだが最近お披露目されたあるハードの登場を予言する文章となっている。

ちょうどいいタイミングだと思うので、友人に許可を得て、サイトでも同じ文章を掲載することにした。2007年末に書いた文章なので、現在の状況と合わない部分も多少あるかもしれないが、ご容赦いただきたい。

--ここから--

バーチャルボーイは、倒れたままなのか?

10年以上ネット上でダラダラと活動を続けていたおかげで、オンライン、オフラインともに実に多くの人と出会うことが出来た。私のつたない文章に対して楽しみだとおっしゃってくれる方がいることが何より幸せだし、生きる気力の源となっている。この場を借りてお礼もうしあげます。ありがとうございます。

長いあいだ、サイトを運営しているといろいろな事がある。コメント欄に某社からニンテンドーDSを小馬鹿にした書き込みがあり、IPアドレスをさらして、ネット全体を巻き込んだ大騒ぎになったのも、今では良い思い出だ。そろそろこの件は忘れてあげてやっても良いと思うのだが、どうだろうか?

印象深いニュースはたくさんあるのだが、サイトを立ち上げたばかりのときに飛び込んできたのは横井軍平氏の訃報だった。1997年10月4日、任天堂を退社して新会社を設立してわずか1年後の出来事である。サイト上で彼の功績をまとめて特集を組むとか、追悼するとか、そういったことに頭が回らず、ただただ、呆然としていた事を覚えている。

この雑誌を手にしている方にはあえて説明する必要もないだろうが、横井氏は任天堂の開発一部の部長で、任天堂が販売した多くのハードウェア、ソフトウェアに関わった偉大な人物である。現在も、任天堂のハードウェアには彼の魂が確かに宿っている。

彼の事を考えながら、荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部に、19世紀の英国作家"ウイリアムMサッカレー"の言葉が引用されていたのを思い出した。

「愛してその人を 得ることは 最上である…
 愛してその人を 失うことは その次によい」

名言だ。

亡くなっていく人も、単にこの世界から消えてしまったのではない。残された人たちに多かれ少なかれ、何らかの”疵”を付けていくのだ。その疵を背負い、生き方を、魂を受け継いで人生を歩んでいく事で、故人の思いに報いる事が出来るのではないだろうか。

果たして、私がこの世を去るとき、何人の心に疵を付ける事が出来るだろうか。この世に生を受けてきたからには、誰かの心に一生トラウマになるような深い疵を付けてやりたいと思うのはエゴだろうか。

ゲーム業界における成果物も、人と同じく、後に制作されたものに影響を及ぼす例を多く見かける。ゲームソフトの続編が出てきたり、他の作品から影響を受けたりするのは当然だが、今回は技術面での継承に注目した。

横井氏の名言「枯れた技術の水平思考」はまだ健在なのか、これからも通用するのか。

右ページに掲載したのは任天堂が過去にリリースしたハードウェア、サービスの一覧だ。スペースの都合上、ゲームボーイライトや、スーパーファミコンJr.、ニンテンドーDS Liteなどのマイナーチェンジハードや、一部の周辺機器は除外している。ご了承いただきたい。

任天堂ハードの歴史
1977年テレビゲーム15任天堂初の家庭用ゲーム機
1980年ゲーム&ウォッチ携帯ゲーム機
1982年ゲーム&ウォッチマルチスクリーン十字キーの誕生
1983年ファミリーコンピュータ世界的大ヒット商品
1984年光線銃シリーズファミコン用ガンコン
 ファミリーベーシックファミコン用BASIC
1985年ファミリーコンピュータロボットゲームと連動するロボット
1986年ディスクシステム書き換え可能なディスクカード
 ディスクライター店頭の書き換え機
1987年ファミコン3Dシステム左右の異なる映像を出して立体視
1988年ネットワークシステムFC用通信システム
1989年ゲームボーイ大ヒットした携帯ゲーム機
1990年スーパーファミコンファミコン後継機
1992年スーパーファミコンマウスSFC用マウス
1993年スーパースコープSFC用バズーカ型ガンコン
1994年スーパーゲームボーイゲームボーイソフトをSFCで
1995年バーチャルボーイ3次元映像ゲーム機
 サテラビュー衛星放送波を利用し、ゲーム配信
1996年NINTENDO6464bitゲーム機
1997年ニンテンドーパワーSFC/GBソフト書き換えサービス
 振動パックN64コントローラ用バイブレータ
1998年ポケットカメラゲームボーイ用デジタルカメラ
 ポケットプリンタゲームボーイ用プリンタ
 ゲームボーイカラー液晶がカラーになったGB
 64GBパックGBソフトを接続するアダプタ
 NINTENDO64VRS音声認識システム
1999年64DDN64用ディスクドライブ
 NINTENDO64モデムN64用通信モデム
 NINTENDO64マウスN64用マウス
2000年キャプチャーカセットN64用画像取り込みアダプタ
 動きセンサーカートリッジGBC/GBA用モーションセンサー
2001年ゲームボーイアドバンスGB/GBCの後継機
 ニンテンドーゲームキューブ任天堂初の光学ディスク採用機
 GBAケーブルGC-GBA接続ケーブル
 カードeリーダーGBA用カード読み取り機
2002年モバイルアダプタGBGBC/GBA用携帯電話アダプタ
2003年クラブニンテンドー会員制ポイントサービス
 ゲームボーイプレイヤーGB/GBAソフトをGCでプレイ
 タルコンガGC用打楽器型コントローラ
2004年ゲームキューブマイクゲームキューブ用マイク
 ワイヤレスアダプタGBA用無線通信アダプタ
 ニンテンドーDS2画面+タッチパネル搭載携帯機
 DSステーション体験版配信、通信用店頭端末
2005年プレイやんGBA用ポータブルAVプレイヤ
 ニンテンドーWi-FiコネクションDS/Wii向け通信サービス
2006年Wiiリモコン搭載据え置き機
 バーチャルコンソールWii向け旧作ソフト配信サービス
2007年DSテレビNDS用ワンセグチューナー
 バランスWiiボード体重計型コントローラ

※主要なハードウェア、サービスのみ抜粋。同一年内は順不同

枯れた技術というのは、最先端ではなく、十分に研究しつくされ、量産技術が整い、安価で安定した製品を生み出す事の出来る技術のことだ。

水平思考(=ラテラルシンキング)というのは、端的に説明すると、”発想の転換”。既成の枠に捕らわれずに視点を変えて問題解決を図る思考方法のことだ。逆に、与えられた枠の中での問題を解決する思考方法は垂直思考(=バーティカルシンキング)と呼ばれる。

つまり、枯れた技術の水平思考というのは、安くて安定した技術を本来の目的とは違う用途に用いる考え方を意味する。

横井氏が手がけたゲーム&ウォッチは、電卓向けに大量生産されたプロセッサと液晶を、ゲーム機に使うという発想の転換で生み出された大ヒット商品なのである。

現在(2007年11月)、任天堂の業績は右肩上がりで、株価も上場来最高値を幾度となく更新し、衰える事を知らない勢いを保っている。その功績は、ニンテンドーDSとWiiという大ヒット商品が存在しているからに他ならない。そして、この2大ヒット商品は、まさに枯れた技術の水平思考を体現した製品なのである。

ライバルのゲーム機が、最先端の技術を用い、与えられた枠内で最大の出力を求める、垂直思考の設計となっているのに対し、ニンテンドーDSとWiiは、比較的低コストのハードウェアに、さまざまなアイデアを盛り込んでいる。

ニンテンドーDSも、Wiiも、以前のハードウェアとの互換性を保ちつつも、まったく新しい、突飛なハードに見えてしまう。しかし、その機能の一つ一つを取り出していくと、任天堂がこれまで通ってきた道が浮かび上がってくる。

通信

DSやWiiに限らず、通信機能は現在のゲーム機に必要不可欠なものとなっている。任天堂の通信に対する取り組みは早く、1988年の段階で、ファミリーコンピュータ向けのネットワークサービスをリリースし、家庭で株取引のできる「ファミコントレード」(野村證券と共同開発)などに参加できる仕組みを作っていた。

外に向かうオープンな通信は、比較的消極的で、数万台しか普及しなかった64DD用の「NINTENDO64モデム」や、対応ソフトの少ない「モバイルGBアダプタ」など、成功とは言えない状況であった。家庭内に通信環境が十分に整うのを水面下で伺っていたのであろう。

任天堂がその場に居合わせた者同士のクローズドな通信を積極的に進めた。ゲームボーイの通信機能は、ポケットモンスターの大ヒットになくてはならない要素となったことは言うまでもない。通信機能の実装は非常に低コストであったと言われており、横井氏も「深く考えずに付けた」と語っていた。

クローズドな通信と言えば、据え置きゲーム機と携帯ゲーム機の連携も忘れてはいけない。スーパーゲームボーイでは、単にテレビ画面でゲームボーイソフトが遊べるだけだったが、64GBパックでポケモンをNINTENDO64に呼び出せるようになり、ゲームキューブのGBAケーブルでは手元の画面を使ったゲームが楽しめるようになった。WiiとDSの連携は、まだまだこれからといった感じだが、今後の斬新なアイデアでこの機能を活用してくれるソフトが出てきてくれるに違いない。

インタフェイス

DSのタッチパネルは任天堂のハードの中では直系の祖先を持たない突然変異といえる存在だが、Wiiリモコンの中には任天堂の歴史がぎっしりと詰まっている。

Wiiリモコンの十字キーは、ゲーム&ウォッチから引き継がれたものだし、ダイレクトポインティング機能は、光線銃の発展系だ。モーションセンサーも簡単な仕組みのものだが、ゲームボーイ用カートリッジとしてリリースされている。振動機能はNINTENDO64振動パックからの伝統だ。ヌンチャクにも目を向けると、NINTENDO64が生んだ3Dスティックが真ん中に鎮座している。

DSのインタフェイスもタッチパネル以外は任天堂の歴史を体現している。ボタン配置はまさにスーパーファミコンそのものであるし、2画面は懐かしのゲーム&ウォッチマルチスクリーン、ご丁寧にファミコンの2コンにあったマイクまで復活させている。

一覧表には載せていないが、DSソフトの「マグキッド」の「スライドコントローラ」は光学マウスの技術を転用しており、スーパーファミコンマウスやNINTENDO64マウスの子孫といえる。同じくDSの「大人のDS顔トレーニング」の「フェイスニングスキャン」は機能的にはデジカメと同じで、ゲームボーイカメラ、キャプチャーカセットの血を受け継いでいる。

このように、WiiリモコンやDSには歴史が凝縮されているのである。手にしたときに、その歴史の重さもじっくりと味わって欲しい。

サービス

任天堂が発売した後付ハードで最もヒットしたと言われているのがディスクシステムである。フロッピーディスクのようなディスクに、ゲームを入れ、ディスクライターを設置した店頭に持ち込めば500円で新作ソフトを手に入れられた。書き換えシステムは、その後、ニンテンドーパワーの名称で、スーパーファミコンとゲームボーイソフトの書き換えサービスとして引き継がれた。

過去のソフト資産を活用しているという意味では、Wiiのバーチャルコンソールがその子孫に当たるだろう。わざわざ店頭に出向かなくても、家にいながらにしてファミコンソフトを低価格でダウンロードできるサービスは、うれしくもあるが、歯止めがきかなくて困ったものでもある。

データの配信という点に着目すると、サテラビューの思想は、DSステーションに引き継がれている。店頭に出向くという煩わしさはあるが、無料で体験版がダウンロードできるのは良い。

CGM

現在、Webの世界でCGM(=コンシューマジェネレイテッドメディア)が着目されている。運営側が作成したものを一方的に見せるのではなく、訪問者が作品を作り上げ、それを皆で楽しむサービスだ。動画投稿サイトや、ソーシャルブックマークサービスなどがそれに当たる。

Wiiの「大乱闘スマッシュブラザーズX」にはステージ作成機能が搭載されており、Wi-Fiコネクション経由で自分の作品を投稿できるようになっている。まさにCGMだ。また、Wiiで作成できるアバター”Mii”を投稿する「Miiコンテストチャンネル」もCGMである。

64DDでリリースされたマリオアーティストシリーズも自分で作った作品を投稿する事が出来た。母集団が少なかったせいで小規模な盛り上がりしかなかったのだが、スマブラXでは盛り上がって欲しいものだ。


ここでもう一度先ほどのページの一覧表を見て欲しいのだが、ほとんどの項目は形を変えて現在のハードウェア/サービスとして生き残っていることが分かる。

ここ数年でリリースされた、「プレイやん」や「タルコンガ」、「バランスWiiボード」も、今後登場するハードウェアに何らかの影響を及ぼしていくのだろうか?

また、すでに継承済みの枯れた技術も、当然今の形態が最後というわけではなく、今後さらに形を変えて我々の前に姿を現す事だろう。

ニンテンドーDSの後継機は、いったいどんなインタフェイスを持つのだろうか?Wiiリモコンの進化形はどんな形をして、どんな機能をもっているのだろうか?2008年3月には、いよいよWii専用ソフトもダウンロード販売される。Wiiの次のゲーム機では、もしかするとパッケージ販売がなくなり、すべてダウンロードできるかも知れない。CGM的要素をさらに取り込んで、ユーザーと開発者の壁がよりいっそう低くなるかも知れない。ユーザーが作った作品を有料販売する仕組みがあっても面白いんじゃないだろうか?あれこれ考え始めると、妄想が止まらない。

その一方で、後継機で使われる事のない消えた技術も存在している。さすがにロボットが復活する事はないだろうが、トレーディングカードとゲームを融合させたカードeリーダは、何らかの形で復活しても良いんじゃないだろうか?モバイルアダプタのように携帯電話と繋がる仕組みも工夫次第ではいろいろ楽しめるんじゃないだろうか?

そして、皆は忘れていないだろうか、NINTENDO64前夜に華々しく散った、あのハードを。横井軍平氏が任天堂を去る前に、最後に残したあのハードを。

…果たして、バーチャルボーイは、倒れたままなのか?

--ここまで--

というわけで、ニンテンドーDSの後継機でとは断言していないが、バーチャルボーイがもたらした技術の復活を予言していた。また、パッケージ廃止を予言したが、ライバルPSP goでは採用されたものの、3DSでは通常通りのパッケージ販売は残ることとなった。微妙なズレはあるが、なかなか良い読みをしていると思う。

横井氏が再び注目を集めて、横井軍平ゲーム館が復刊したのも感慨深い。今、復刊されたその本を読んでいるところだが、このなかに任天堂の次の戦略のヒントが隠されているような気がする。

Wiiの次世代機が発表される前に、また過去のハードを振り返って、消え去った技術の再利用に思いを馳せるのも良いかもしれない。

関連記事:「横井軍平ゲーム館」が復刊


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コメント

2ちゃん用語のGKはある意味、アレックス氏が生みだしたようなものだったんですね

ロボット復活、あり得なくは無いと思います!
多分あと20年後ぐらいには!

任天堂は技術的な事で何気に先手とってますよね
早すぎたり、遅すぎたり?、パクられたりで悲惨な事もありますががんぱってますね

いい読み物でした
おもしろかったです
締めもカッコイイ。

2007年に寄稿されてるんですね~

もっと注目されてもいいエントリーではないでしょうか?


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