2004年11月27日

任天堂の20世紀、任天堂の21世紀 3章:NINTENDO64 1996年(2)


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ソフトが出ない
ソフトが3本しか発売されていないこと、ソフトに割高感があること、今後の予定が不透明なこと、様々な要因の中でNINTENDO64は爆発的には普及することはなかった。任天堂に危機感がなかったのだろうか、それとも開発上の問題があったのだろうか、同時発売の3本のソフト以降まったくソフトが発売されない状態が続いた。7月、8月と夏休みの間に1本もソフトが発売されず、次のソフトが発売されたのが9月も終わりに近づいた時期である。

騒動
ソフトが発売されない中、8月に1つの騒動が起る。日本経済新聞が「任天堂の経常利益がピーク時の1/3程度に落ち込む見込み」と報じた。すると任天堂の株に売り注文が殺到。大阪と京都の証券取引所で売買取引停止という事態に発展する。任天堂は緊急記者会見を開き混乱を解消させようとすが、任天堂に対する市場の不信は収まらず株価は6,200円に割り込むことになる。全盛期である1990年に記録した34,300円と比較すると実に1/5だ。このとき既にNINTENDO64は100万台を出荷していたが、セガサターンとプレイステーションの両機種は300万台を突破、NINTENDO64がシェアベースでこれらを超えるのは困難な状況に陥った。

水をシミュレートする
騒動の夏も終わった9月27日、ようやく4本目のNINTENDO64ソフト「ウエーブレース64」が発売される。ジェットスキーでリアルタイムに変化する水面を走るNINTENDO64ならではのゲームだ。緻密な計算をもとに変化していく波は従来のハードでは非常に困難だと言えるだろう。また、水の表現が素晴らしく、特に霧が次第に晴れていく湖のコースの美しさは息をのむほどだ。しかし、馴染みのないジェットスキーレースというジャンルであること、季節を外した発売日ということなどのマイナス要素が多く、あまり売れることはなく、当然ながらNINTENDO64普及を牽引していくことはなかった

エニックス参入、しかし・・。
ウエーブレースからさらに2ヶ月間、全くソフトが発売されない空白の期間が続く。その沈黙を破るのがファミコン、スーパーファミコンで人気RPG「ドラゴンクエスト」シリーズを発売してきたエニックスである。しかし、NINTENDO64参入第一段はRPGではなく育成やコミュニケーションを題材とした「ワンダープロジェクトJ2」であった。エニックスの参入第一段という事で相当量が出荷されるが、一般受けしないテレビCMや、ハードの特性上アニメーションや音声が心許なく、すぐに値下がりしてしまうことになる。セーブデータをカセットではなく、コントローラパックに保存するためワンダープロジェクトJ2はコントローラパックが同梱されたが、店によってはそのコントローラパックの値段を下回る価格を付けるところも出てきた。

その後、エニックスは1997年6月27日にアクションゲーム「ゆけゆけ!!トラブルメーカーズ」を発売するが、それ以降NINTENDO64ではソフトを発売していない。さらにエニックスは1997年1月にプレイステーションへの参入を表明、「ドラゴンクエストVII」をプレイステーションで発売することを発表したのだ。任天堂は大きなパートナーを失った。

1年目の年末商戦
12月に入り、久しぶりに任天堂からソフトが発売される。「マリオカート64」はスーパーファミコンで好評を博したレースゲームの続編で、パッケージにコントローラが1個同梱される。本体に4つのコントローラポートを持つNINTENDO64ならではの対戦の面白さを楽しんで貰うための配慮だ。マリオカート64は非常によく売れ、出荷は最終的に200万本を突破しNINTENDO64最大のセールスとなる。また、マリオカート64の発売と同時にNINTENDO64本体の売上げも増加した。

12月には他に3本のサードパーティー製ソフトが発売されるが、年末商戦の中でこの数はあまりにも少ない。結局、本体発売から半年が経過し、1996年内に発売されたソフトはわずか10本という結果に終わった。

少数精鋭の誤算
少数精鋭を謳い、大量の2流ソフトよりも数本の1流ソフトを。その狙いは明確であったが、それはハードが売れてこそのものだったのではないだろうか。発売から半年でわずか10本のソフトしか発売されないハード。そのハードに対して購買意欲が沸く消費者は限られてくる。その少ないソフトの中にどんなに完成度の高いものが含まれていようとも、ハードを持たない者にソフトを売ることは出来ない。例えそのソフトに興味を持ったとしてもハードと同時に購入することになるのではあまりに高すぎるのだ。任天堂の選択した少数精鋭の誤算。それはハードを買わせるためのハードルが高いことだ。

2流3流ソフトの寄せ集めであっても選択肢の多さをアピールしたほうがハードは普及する。その結果として消費者がソフトの質の低さ、実質的な選択肢の少なさに落胆することがあっても、獲得したシェアは揺るぐことがない。しかし、それは任天堂が恐れていたゲーム業界の崩壊に繋がる。それで任天堂は少数精鋭を選んだ。だが、あまりに極端だったのではないだろうか?もう少し消費者とサードパーティーに歩み寄るべきだったのではないだろうか?

挑戦状のツケ
任天堂の誤算はもう一つあった。NINTENDO64のソフト開発には非常に高い技術力が必要だったのである。ソフト開発者に新しい挑戦をさせることが出来るように、NINTENDO64のハード開発者は何でも出来る性能を持ったハードを開発した。実際には性能を引き出すために特殊なチューニングが必要であるなど非常に開発しづらいハードになっていたのである。作り込めば確かに素晴らしいソフトが開発できるのだが、それには長い時間を開発と基礎研究に費やし、膨大な開発コストも必要であった。それは当然ソフト開発者の負担となり、ゲームバランスの調整に時間を割くことが出来ないことから中途半端なソフトが市場に出回ることになり、ユーザー側のデメリットともなる。それでも本気でソフトを最高の物に作り上げようとするならば当然の事ながら開発に時間を要し、発売延期や発売中止が多発してしまう。

また、任天堂はスーパーファミコン時代に2Dでのゲームのアイデアは出尽くしたと考えたのだろうか?NINTENDO64は3Dに特化し、2Dのゲームの開発は困難だと言われている。そうであるならNINTENDO64は2Dを切り捨てたハードといえる。任天堂自身は3Dでの新境地開拓に挑む体力があるが、他社はそうも言ってられない。挑戦的なゲーム作りはできず、既存のアイデアを寄せ集めし、それをアレンジすることで独自性を出すことになる。するとあまりアイデアが出そろっていない3Dゲームを作る場合2Dに比べ、どうしても似通った物ばかりになってしまう。もともとソフト数の少ないNINTENDO64で見た目も内容的にも似通ったソフトが出回る。これで消費者がNINTENDO64を買いたいと思うだろうか?

ゲーム業界の覇者が威信を懸けた夢の64ビットマシンの1年目、それはあまりにみじめだった。

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ウエーブレース64 カワサキジェットスキー

ジェットポンプの力で水上を疾走するジェットスキーを題材としたレースゲーム。ジェットスキーは川崎重工業の登録商標であり、同社の協力のもとで制作している。

3つの難易度、全9コースを4人のライダーが3周する。コース上には2種ブイが浮かんでおり、それを決められたとおり右か左を通らないと減点となる。難易度は障害物やブイの位置で変化させている。波の表現は本当にリアルだが、ゲームをより面白くするために、本物の波よりも遙かに大きな波や自然界では起こりえない波も登場する。単なるシミュレートではなく、ゲームとして面白くする。任天堂らしい選択といえる。

任天堂はこのソフトでコカコーラ社と提携し、コカコーラ社はファンタのキャンペーンでNINTENDO64をプレゼント、任天堂はウエーブレースのコース内にファンタの看板を設置した。

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マリオカート64

マリオやルイージ、ドンキーコングなど任天堂の人気キャラクターがカートでレースやバトルで対決する。前作は350万本を出荷。

グランプリ/タイムアタック用の16コース、バトル用の4コースがある。グランプリは総勢8人でのレース。アイテムの存在もありテクニックだけでなく運も必要。バトルはアイテムをぶつけてカートについた風船を割るモードで対戦専用。4人対戦は本当に熱い。

タイムアタックモードで成績上位者にゴールドタイプのNINTENDO64コントローラがもらえるキャンペーンが行われたが、指定されたコースに構造上の穴があり大幅にタイムを短縮する裏技が発見されて、実質的にランキングは無意味なものとなってしまうた。


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この記事の前後の記事
2004年11月27日:任天堂の20世紀、任天堂の21世紀 4章:NINTENDO64 1997年(1)
2004年11月27日:DSにTouchしてきたぜ

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