2006年06月14日

任天堂経営方針説明会から予想できること


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6月7日に、都内で任天堂の経営方針説明会が行われ、岩田社長による1時間半の講演が行われた。テキストに起こしたものを数日かけて掲載したが、その作業の過程でなんどもなんども聞いているうちに任天堂の次の戦略が見えてきた…ような気がしてきた。

ニンテンドーDS Liteとか脳トレがバカ売れしているとか、Wiiがプロセッサ至上主義とは異なる考えとかE3でWiiにものすんごい行列が出来たなんてことは既知のことだし、ポケモンダイヤモンド/パールがボイスチャットに対応、それに連動するWiiソフト「ポケモンバトルレボリューション」を年内に出すというのはたいていの人にインパクトのない話だろう。

じゃあ、岩田氏の発言、およびその後の質疑応答の中で語られた内容で何が重要なのか?自分が重要だと思ったのは以下の3項目

・バーチャルコンソールで500円、1,000円の新作をリリースする準備を始めている
・Wiiの発売日と価格は9月に発表する
・Wiiの発売前に発表会を開いて新ジャンルソフトを発表する

まずはバーチャルコンソールについて。バーチャル(=仮想の)コンソール(=ゲーム機)は、その名の通り「過去のゲーム機を仮想的に再現(エミュレーション)することにより、Wii上でプレイできるようにするもの」と発表されていたものだ。ソフトはダウンロードにより提供され、本体内蔵のフラッシュメモリ、もしくは別売りのSDカードに保存することが出来る。課金システムはあきらかにされていないが、プレイするためには支払いが必要となる。

このバーチャルコンソールで提供されるプラットホームは以下の通り

・ファミリーコンピュータ
・スーパーファミコン
・NINTENDO 64
・PCエンジン
・メガドライブ

Wiiにはゲームキューブとの互換性があり、ゲームキューブ用の8cmディスクをプレイすることが出来る。こちらはダウンロードによる提供が行われないためか、バーチャルコンソールと呼ばれないようだ。

ここで、岩田氏の発言を引用する。

バーチャルコンソールは過去のプラットフォームのことが今話題になっていますが、そのことだけではなくて、コンパクトな新作を作って、例えば500円、例えば1000円で、新しいコンパクトな新作を楽しんでいただくというような用途にも使いたいと思って準備も始めています。

(中略)ゲームの本筋とはなんの関係もないゲームモードをいっぱい付けたり、ストーリーモードを付けたり、ムービー付けたり、豪華な絵…絵をいっぱい描いたり、キャラクターを乗せたりというようなことが、起こらざるを得ないのが今のパッケージビジネスの宿命なんですね。ですから、これを根本的に変えたいと思っております。

そのために、バーチャルコンソールは大きな可能性がありますし、こういうコンパクトな新作が、出て行く道が出来れば、小規模なチームに新たな開発者としての門戸が開かれます。
任天堂経営方針説明会 テキスト起こし6

これは、Wiiの新しいインタフェイスを駆使した新ジャンルの話の流れで出てきた発言だ。つまり、ここでいうコンパクトな新作は当然、Wii用のソフトということになる。まさかいまさらPCエンジンやファミコンの新作を出すわけにはいかないだろう。

バーチャルコンソールという名称から考えるとWiiの新作が配信されるというのはちょっと不思議な感じがするが、要するにダウンロードおよび課金システムの仮称が今のところ「バーチャルコンソール」なのだろう。まあ、この際、名前はどうでもいいが。

同様のサービスとしてはXbox360のオンラインサービス、「Xbox Live マーケットプレース」があるが、こちらは過去のゲームだけではなく、ゲームの体験版やムービー、マップなどの追加要素の無料/有料の配信が行われている。

Wiiでも体験版の配信を行って欲しいところだが、そうなってくると気になるのはデータの保存量。512MBではあっという間にいっぱいになるだろうから、大容量のSDカードが欲しくなる。ただ、最近ではSDカードの値下がりが激しく、amazonでは例えば2GBのSDカードが8,429円で販売されている。送料税込みで、750円のポイントバック付きだ。手頃な容量のものならもっと安価で手に入る。また、以前の発表によるとSDカードに保存したデータは自由にパソコンなどに保存することも出来るらしいので、最低限の容量のSDカードといちいちコピーする手間さえ惜しまなければ、大容量のカードを何枚も買わずに、何本でもソフトをダウンロードできるようになる。

500円、1,000円のソフトの配信は、以前書いたようなカジュアルゲームの配信に最適だ。ゲームショップに行く習慣がなく、ネットで積極的に検索もせず、新作情報もテレビのCMでしか手に入れられないようなユーザ層でも、ゲーム機の上でメニューから辿っていくだけで新作情報を手に入れ、体験版をプレイし、その場で購入できれば需要拡大に繋がる。アイデア重視でボリュームの少ないカジュアルゲームが適正な価格で、それを求めている人たちの手元に届くようになる。みんなにとって嬉しい仕組みだが、流通業者や小売店は頭を抱えるだろうか。

次に、価格発表の時期について。質疑応答で岩田氏はこう語っている。

Q1 Wiiの正確な発売価格および発売月の発表はいつ頃になるか。また、基本的に赤字にならない価格で発売するという考えで良いのか。

岩田: 正確な価格や発売日については、今年の9月頃までにはお話しする必要があると思っています。というのは、第4四半期に出す、第4四半期イコール10月から12月の間ですから、その前に当然お話しないといけませんので、9月までには何らかの形でそういう機会を作ろうと思います。また、価格が赤字にならない値付けなのかどうかということについてですけれども、ゲーム機というのは、最初は赤字が当たり前というのは、妙な常識だと思うんですね。(中略)任天堂はそういう発想とは、距離を置いております。実際に、じゃあ我々が赤字になるのかならないのかということについてですけれども、1円も赤字にならないかどうかはわかりません、が、巨額の赤字がハードで生まれるということはないようにするつもりです。また、そのことは結局どこかで取り戻さないといけないわけですから、むしろ私達はWiiのビジネス全体で、初年度から健全なビジネスが展開できるということを前提に考えております。
経営方針説明会 質疑応答(任天堂)

また、別の質問の回答として「私どもはその600万台というように申しあげている年度内の予定の中で、400万台以上は年内に出荷できるようにしたいなというように思っている」と発言している。

初期需要があり、全世界で同時期に発売するとはいえ、400万台をという数をさばくのに1ヶ月では短すぎる。おそらく11月下旬以降の発売はない。Wiiの発売日は10月から11月上旬にかけて…と予想できる。価格はすでに25,000円以下と発表されているが、ある程度の赤字は覚悟しておきながらも、健全なビジネスをするとの宣言。…うーん、一体いくらなんだろう。

9月までに何らかの形で発売日と価格を発表するというが、せっかく発表するのならそれ以外にもなにか別の新事実の発表があると考えるべきだろう。9月といえば東京ゲームショウがあるが、それにあわせて発表を行う可能性もあるし、数年前から中止しているユーザ参加型の展示会「任天堂スペースワールド」の再開も考えられる。

岩田氏は講演で次のように語っていた。

Wii Sportsのシリーズ、まあ、テニスや野球やゴルフなどのソフトを除いては「ゲームをしたことのない人がぱっと遊べるようなソフトが、(Wiiには)ありませんね。」ということを色々な方から、取材で、えー、質問を受けました。もちろん、私たちはそういう新しいジャンルのソフトを考えています(中略)

そして、またそのために、いくつかの具体的なテーマを挙げて、投入の準備も始めています。そして、本体の発売から間を空けずに…本体の発売と同時期に、複数の新しい提案が出来ると思います。

ただし、脳トレが流行る前と今とではちょっと状況が違ってきました。1年前に脳トレの存在を無視していた人たちの中には、今や、えー「これは売れるんだったら、こういうソフトを作ろう」ということで、次々と脳活性化ソフト作る方々が現れました。いわゆるフォロワーが現れたということですね。

そして、今や、脳活性化ソフトはゲーム業界の中で、一大ジャンルになっています。

そして、そういうことが起こった後ですから、いま、我々の行動は、注目されているというふうに自覚しております。そういう中で、えー、我々が、早くこのテーマについてお話しすぎることは競争上好ましくないのではないかと、今の時点では、まず、我々の社内で深く潜行して進めておいて、そして時が来たときに、まあ、発売前にまた、何らかの形で発表会をさせていただく機会もあるでしょうから、そういうときに、えー、大々的にお見せするのはどうかな、というふうに今思っています。
任天堂経営方針説明会 テキスト起こし6

間違いないく、価格や発売日の発表があるときに、Wiiで新しいジャンルのソフトも発表される。しかも、その時期はなるべく遅らせたい考えだ。バーチャルコンソールの詳細発表も同じタイミングだろう。

これらの話を統合するとこうなる
・Wiiの価格と発売日の発表時に未発表の新ジャンルソフト、バーチャルコンソールの詳細が発表される
・発表は10月より前で、なるべく遅い時期
・本体の発売は10月~11月上旬

発表会と発売日の間隔は非常に短い。岩田社長就任前の、かつての山内体制では発売する見込みすら危うい商品を早々と発表し、それによってユーザーに早い段階で他の選択肢を排除させ、延期延期を繰り返すという戦略を頻繁に行っていた。スーパーファミコンではファミリーコンピュータのソフトを遊ぶためのアダプタを発売すると発表し、NINTENDO64ではファイナルファンタジー6のキャラを使用したCGムービーを公開、MOTHER3を発売するとも発表した。情報だけ先行し、結局発売に至らなかったソフトや機器が多々ある。

一方で、最近の岩田体制では動きが素早い。昨年のE3で唐突に発表したゲームボーイミクロは数ヶ月で発売されたし、ニンテンドーDS Liteも発表から発売までが極端に短かった。Wiiでも同様の戦略をとる可能性が高い。

パーソナルコンピュータの世界で例えると、過去の山内体制はマイクロソフト的、現在の岩田体制はアップル的である。

結局2007年の発売となる、Windowsの次期プラットホームであるVistaは当初、もっと早い時期に発売される予定だったし、本来予定していた機能も一部2007年の発売に間に合わずに未搭載となるものがある。一方でアップルは新型iPodや新型iMac、MacBookなどを発表したその日のうちに直営店のアップルストアやオンラインストアで販売を開始する。

任天堂はターゲット層の相違があるため、さすがにアップルとまったく同じ戦略は取れない。アップルのメインターゲット層はネット上での最新情報に敏感で、その製品も発売日に買う必要のない商品だ。一方で、任天堂はターゲット層に情報が伝達されるまでの時間を必要とするし、ゲーム機やソフトは発売日に欲しい物だ。任天堂にはある程度の周知徹底期間が必要となる。

任天堂の発表から、その情報が隅々まで行き渡り、なおかつ情報が色褪せない期間というと、どれぐらいだろうか。ニンテンドーDS Liteは発表から1ヶ月とちょっと…5週間程度での発売となったが、以前も書いたように、これは本来の発表日よりも早かった可能性が高い。発表は発売2週間前に行うことも出来た。ただ、これは上位機種なので行き渡るのを待つ必要があった情報はほとんどなかったという点でWiiとの違いがある。

今現在、E3でWiiのソフトが発表されてちょうど1ヶ月程度。ネット上では良い感じにWiiの話題で盛り上がっているし、ネット外でもある程度Wiiの話題が出てくるようになった。新製品の情報が行き渡るのに1ヶ月というのはちょうど良いぐらいかもしれない。発売が近づけば、当然CMもガンガン打ってくるわけだからネット外でももっと情報が浸透していくだろう。予約などの準備期間を考えるともう少し長いぐらいでも良いかもしれない。発表から1~2ヶ月の発売であれば、発表時のインパクトを保ったままの状態で店頭に並ぶことで、良いスタートダッシュが期待できる。

このことから考えられるスケジュールはこのあたりだろうか?
「夏休みである8月に東京で自社主導の発表会と体験会を実施し、10月上旬に発売」
もしくは
「東京ゲームショウにあわせて9月に発表会、その後全国で体験会を実施し、11月上旬に発売」

どうかな。


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この記事の前後の記事
2006年06月21日:レビュー:テトリスDS
2006年06月12日:任天堂経営方針説明会 テキスト起こし8

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コメント

ゲーム屋に行かない人やテレビCMでしか新作情報を得られない人がゲーム機上で情報を得られる
って言ってますがWiiでネット接続するにはネットができる環境がもちろん必要であってそういう人達がWiiのためにわざわざネット環境を作ろうとするでしょうか

前半と後半では関係性がありそうで全く関係ない話をされているようですが、間口を広げるのが目的ですから別に全ての人が一からネット環境を作らなくてもいいんではないでしょうか。

DSのWiFiだって結構浸透してますよ。ますおさん。

Wifiのシステムはゲーマーの夢でもあり、ゲーマーじゃない方にも興味がそそられ、とても素晴らしいものだと思います!!
ですが、私はパソコンを持っておらず、田舎に住んでいるので、店などに設置してあるはずのWifiの機械?を見た事がないです…今時パソコンを持っていないなんてかなり珍しい事だと思いますが、家にオンライン環境があること前提の機能なので、その部分だけはショックです…ま、いつかはパソコン買うんですけどね!!笑

早速、あれっくすさんの記事が読めて良かったです。

ユーザーとしては情報に飢えているので早く知りたいところですが、
確かに発表から間をおかずに発売したほうが盛り上がりますよね。
スケジュールとしては8月発表で10月上旬発売が嬉しいです。
夏休み中に体験会があったほうが触れる人も多いでしょうし。
ただ9月に発表なのか、9月までに発表なのかが気になりますね。

Wiiのバーチャルコンソールですが、iTMSのような感じになるんじゃないかなと予想してます。

過去の名作、新作が折り混ざっている姿はまさにそれかなと、勘ぐってみたり・・・

コンビニでバーチャルコンソールのプリペイドカード?が並ぶかもしれませんね

我が家はADSL未提供地なのでwifiは正直遠い存在です。
しかし楽しさは想像できるし、その想像よりもはるかに楽しいのではないでしょうか。
なんでスマブラ×までにはADSL環境の提供頼みますよ電々さんorz

僕はクラブニンテンドーのプレゼントが発表された日から、何の前触れも連絡も無く突然家にWiiリモコン型TVリモコンが届いてそれが発売日が近いという合図になる、という妄想を捨て切れません。

ネット環境がどうなるのか、まだ分からないこともありますが……ひとまずオイラも時々、wiiを会話の中に話題として出し、情報の浸透にひと役買わせてもらいますよ。フォフォフォ。

テキストかきおこし,おつかれさまでした.
1時間半は見る気がおきず,大変お世話になりました☆


ところで,細かいお話ですが,
>NINTENDO64ではファイナルファンタジー6のキャラを使用したCGムービー
って,ありましたっけ?
シーグラフで発表されたものを,もう一度64でもやりますよという意味で発表したのかな?
僕の記憶だと,社長がFFのムービーを見て,これをぜひ家庭に提供したいっていう流れだった気がするのですが・・・.

ロクヨンの発表の時、ファミマガという雑誌に写真がのってましたよ。
確か、ティナらしきキャラクターが回復魔法を使い、盗賊の少年(ロックだったかな?忘れた)と、仮面付けた忍者みたいなのと3人パーティだったと思います。
3人でナンカ巨大な敵と戦っておりました。

ティナとロックとシャドウのことですね??FF6は64で発売するつもりだったのですか??

6は、スーファミで発売してましたから、どうでしょうねえ。
ロクヨンは、こんな高性能だというデモンストレーションのためだけに、スクウェアが作ったアニメーションだと思いますよ。
ところで、キャラクターの名前、サンキューベリマッチ!

当方のブログで「任天堂経営方針説明会 テキスト起こし」を紹介させていただきました。
本当にご苦労様でした。

うーん「体験会」ですか、
自分は敢えて露出をぎりぎり(ポケモン発売あたり)まで抑えて、
消費者の興味が分散するのを避けるのではないかと思っています。
Wiiの新機能の魅力はTVCMだけで十分伝わるものでしょうし。

それに、ポケモン・DSライト・Wiiを一度にねだられたら親も流石に抵抗感を感じるのではないでしょうか?


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