「君の名は。」美しくて、まぶしい物語
今年はとにかく映画を多く観ている。映画の作品数ではなく、鑑賞回数が多い。
ある映画のせいで、同じ映画を繰り返し観る習慣がついてしまった。
新海誠監督のアニメ「君の名は。」も公開1週間で、4回観てしまった。あと数回は観ることになりそうだし、Blu-rayが発売されたら買うだろう。パンフ、サントラ、小説版、スピンオフ小説、公式ビジュアルガイド等も確保済みだ。
映画館に通い詰める毎日で、この作品の予告を数十回見せられたのだから、そういう運命だったのかもしれない。断片的な情報を与えられ続けて、本編を見た瞬間に一目ぼれした。まるで、三葉と瀧のようだ。
1回目の鑑賞は公開初日の夜。
すでに午前中の上映で鑑賞した友人から絶賛の声と、泣ける映画だという情報が入っていた。私はもともと涙もろいタイプではあるが、人前で我慢しようと思えばある程度はコントロール可能だ。だが、この作品は躊躇せず泣くべきだろう判断し、席についてすぐ、ハンカチを用意した。
これもある映画のせいで人前で涙をながすことに対するハードルがものすごく下がってしまったせいだ。
以下、映画のネタバレ含む。
1回目の鑑賞
4回観賞を繰り返していくうちに感想が上書きされていって、最初に観た時にすぐに感想を書くべきだったと反省している。
1回目は、とにかく終盤で泣き続けてエンドロールの間ずっと涙が止まらなくて、しばらく席を立てず、ようやく外に出たらロビーにラストシーンと同じ構図のキービジュアルが飾ってあり、館内放送で「前前前世」が流れてまたダメージを受けて、そのまま帰り際にサントラをダウンロード購入して、本屋に寄って小説版を買った(Kindle版で買い直して人に譲ったので上の写真には入っていない)
ラストの再会シーンはとにかく泣いていたが、1回目の鑑賞で一番衝撃を受けたのは三葉の授業シーンだった。きっと、多くの観客にとって大して意味のない場面だろうが、一気に涙が溢れた。
ちょうど1ヶ月ほど前に友人たちを家に招いた時に、新海監督の前作「言の葉の庭」をみんなで鑑賞して、ラストシーンで自分を含む数人がボロボロ泣いていたのだけど、まさか別の作品で雪野先生が出てくるなんて。しかも、生徒に冗談を言って笑ってる。よかった。やっと、自分の足で歩けるようになったんだね…。
結果として、映画を観て受けた衝撃をうまく言語化できず感想記事を書きかけて破棄して、サントラを聞いたり、予告を見なおしたり、小説版を読んだり、鑑賞済みの友人と「ないた」「むり」「だめ」と中身のない感想を投げ合ったりしつつ、3日後に吸い込まれるように2回目の鑑賞に挑んだ。
2回目の鑑賞
2回目の鑑賞は1回目の数倍泣いた。上映開始30秒で泣いた。この彗星の美しい軌跡の先に三葉たちがいる。そう思うと、泣かずにはいられなかった。
新海監督の作品はミュージックビデオ的だ。代表作「秒速5センチメートル」では、3話構成の第3話が完全に山崎まさよしの「One more time,One more chance」のMVになっている。「言の葉の庭」における「Rain」も印象的だ。今作では、躊躇なく全力でMV化を図っている。ボーカル曲を4つ入れて、それぞれ印象的な映像を生み出している。サントラを聴きこんでから鑑賞すると、曲が流れる瞬間に落涙のスイッチが入ってしまう。
メインテーマ曲「前前前世」では、入れ替わりの生活に戸惑いながら楽しむ二人の姿をコミカルに描いている。長い間奏が印象的な「スパークル」は、前半で隕石衝突の危機に奔走する三葉の姿を、後半で瀧との絆を確信して父親と対峙する三葉と美しくも無情に町を破壊する隕石を描いている。エンディング曲の「なんでもないや」は喪失感を抱きながら都会生活を送る二人のすれ違いと運命の再会を描いている。
4つの楽曲はそれぞれ起承転結に当てはまる。導入部の「夢灯籠」、入れ替わりが発覚してからの「前前前世」、迫り来る彗星から町を守る「スパークル」、5年後の結末「なんでもないや」。
作品としてのピークは、「なんでもないや」に設定されている。「すれ違う運命の二人の再会」と表現すると使い古されたテーマだが、それだけに万人の心を打つ印象的な美しいシーンに仕上がっている。
だが、真のピークは2回目の鑑賞時のオープニング曲「夢灯籠」だ。
朝自宅をする三葉と瀧、三葉は髪が長くなり、瀧は着慣れないスーツに袖を通す。背中合わせに立つ二人。彼らを隔てた3年間、そして描かれなかった5年間の姿がスクリーンに映し出される。ずっと誰かを探していて、でもそれが誰かわからなくて、慣れない東京の生活で疲弊しているであろう三葉が愛おしい。そのうつむいた顔を、きっと瀧が笑顔に変えてくれる。
1回目の鑑賞では特に気に留めないカットが一つ一つ心をえぐっていく。わずか2分ほどの映像にこの映画のエッセンスがすべて封じ込められているといっても過言ではない。この映画は2回観るべきだと強く主張する。
2回目は平日の夕方に観に行ったせいか、男子高校生が異常に多かった。そんな若いうちからこんな作品に触れたらいろいろこじらせるだろうなあと温かい目で見ていた。運命の相手なんて現実の世界にそうそういねえぞ。自分も三葉に出会いたい。奥寺先輩でも良い。
3回目の鑑賞
3回目は謎解きモードで観に行った。その結果、いろいろと疑問点が出てきた。入れ替わりに3年の隔たりがあることは劇中で示されていたが、ジャスト3年ではないっぽい。
ユキちゃん先生の授業シーンは9月3日(火)と黒板に書かれている。その後のテッシーの「腐敗の臭いがするなー」のシーンでは2013年9月のカレンダーが見える。瀧が三葉の体に入り、おっぱいを揉み、寝癖のまま登校してノートに「お前は誰だ」と書いたのはその前日なので2013年9月2日だ。
東京で瀧の体に三葉が入り、学校にもバイトにも遅刻して奥寺先輩に女子力を披露したのは2016年9月5日(月)である。日記の日付や、「2016年学祭」のポスターで分かる。瀧の意識と入れ替わっているはずなので、2013年9月2日(月)時点の三葉が2016年9月5日にやってきたことになる。映画上では、入れ替わり後の「東京のイケメン男子にしてくださいーーい!」のあとに、東京のシーンが描かれているから、三葉の意識をベースに考えると時間を遡った回想シーンということになる。
もしくは、入れ替わりが不完全で、非同期だったのではないかという推測も成り立つ。ふたりとも同時に入れ替わるわけではなく、片方が意識を乗っ取って、もう一方は眠っているような。
その後の入れ替わりについては、スマホの画面のスクロールを一時停止しないと解析が難しそうなので省略するが、デートの予定を書いた日記のタイトルが「東京生活10」なので、日記をつけ出して10回目で入れ替わり現象は終わったことは分かる。
日付以外で気づいた点としては、すでに多くの人が指摘しているが、彗星の軌道の誤りだ。テレビ画面で彗星の軌道が3回描かれ、そのうち2回が間違っていた。最初の入れ替わり後(9月3日)のテレビではちゃんと太陽を焦点とした楕円軌道になっているが、最接近間際の10月の時点では太陽の手前で曲がる軌道がニュース映像としてながれている。このニュースは三葉と瀧がそれぞれ見ているので2回登場する。3シーンとも間違えているわけではないので、意図した演出ではなく単純なミスだろう。
二人のiPhoneも気になる。公式ビジュアルガイドには三葉がiPhone5、瀧がiPhone6と書かれているが、物理ボタンとアイコンの配置から三葉のiPhoneが5もしくは5Sなのは間違いない。そして、5S以降に搭載されるタッチセンサー付きHOMEボタンが搭載されているように見える。だが、5Sは2013年9月2日の時点で未発売である。まあ、どうでもいい些細な問題だが、タッチセンサー搭載だと指紋でロック解除できるので入れ替わり時にパスワードを教えてもらわなくてすむというメリットがある。
ちなみにiPhoneの画面上の携帯キャリアや検索エンジンの名称として登場する「CWF」は制作会社の「コミックス・ウェーブ・フィルム」の略称だ。そして、5年後の瀧が持つiPhoneは、現在リリースされているiPhoneシリーズのいずれとも異なるデザインになっている。
複数回鑑賞しておかないと気づきにくい要素としては「高山らーめん 吉野」の営業車がある。冒頭の市長選演説シーンの直後で駐車しているのが見える。店主が糸守出身ということは劇中で言及があるので、おそらく時期外れの墓参りか何かで来ていたのだろう。
また、結婚式の相談をするテッシーたちのあとで、糸守出身者が次々と登場するシーンがある。三葉にいじわるなことを言っていた娘があいかわらずシュシュで髪を束ね、牛丼屋のようなところで食事をしていたり、その連れの男もコンビニバイトしていたり、なんとなく冷遇されている感じがする。8年前の死亡者リストで9歳と書かれていた四葉は17歳になったが、小学生の頃と同じツインテールのまま授業を受けている。
更に細かいところを見ていくと、三葉の姿でもノーブラで過ごしていた瀧に対し、三葉は途中からブラを付けて寝るようになったようだ(具体的には前前前世が流れたあとから)。ゲームマニアとしては、テッシーが使っている部室にファミコン、プレイステーション、ゲームキューブ、ドリームキャスト(コントローラ)が置かれていて、宮水家のテレビ台にニンテンドー3DS LL(ピンク×ホワイト)が置かれていたことは見逃せない。
また、奥寺先輩とのデート先の写真展のタイトルは「郷愁」と名付けられていた。ある意味伏線だ。すでに存在しない風景を集めるコンセプトだったのかもしれない。静物のデッサンの授業で瀧が風景画を描いているのも伏線といえるかもしれない。
あと、「来世は東京のイケメン男子にしてください」=「東京の女の子と付き合いたい」なのでは?三葉は奥寺先輩を本気で狙っていたのでは?という新たな疑問が湧き出してきた。
細かいところを確認しながら鑑賞したので、今回は泣かないだろうと思ったが、ラストで泣いた。無理。
4回目の鑑賞
4回目は友人たちと鑑賞。週末のレイトショーだったが、400席を超えるシアターが早々に完売していた。早めに予約しておいてよかった。
ある映画絡みの友人で、お互い泣き顔は何度もみてるので遠慮なく泣いた。
オープニングで泣いて、やがて崩壊する運命にある日常シーンで泣いて、デートの日に自分の想いに気づく三葉につられて泣いて、糸守の上空で美しい軌跡を描く彗星に泣いて、3年前の災害の痕跡に泣いて、瀧に流れ込む三葉の人生に泣いて、三年前の出会いに泣いて、カタワレ時の二人の再会に泣いて、三葉の手に書かれた文字に泣いて、結婚式の相談をする2人に泣いて、並走する電車に乗る二人に泣いて、そこからずっとエンドロールまで泣き続けた。
そして、観終わったあとのよくわからないテンションでよくわからないものを作った。
ディテールを気にしていくと、あらが目立つ映画ではある。突っ込みどころを探して行ったらきりがない。
やっぱりこの映画は細かいところを気にせず、泣きながら観たほうが気持ちいい。
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