「HK 変態仮面」は想像以上にすごい映画だった
今から20年ほど前、1992年は週刊少年ジャンプの黄金期と呼ばれた時代のまっただ中にあった。
当時の主な連載作品はこんな感じ。
・ドラゴンボール
・ジョジョの奇妙な冒険
・DRAGON QUEST ダイの大冒険
・ろくでなしBLUES
・SLAM DUNK
・花の慶次
・幽☆遊☆白書
その、化け物まみれの週刊少年ジャンプに新連載として飛び込んだ漫画があんど慶周によるギャグ漫画「究極!!変態仮面」だ。
刑事の父とSM嬢の母の血を受け継ぐ高校生がパンティを顔にかぶって変態仮面に変身し、悪人を懲らしめるという、黄金期の少年誌に載せる必要があったのか疑問に思えるぶっ飛んだ作品で、案の定1年で雑誌からは綺麗サッパリ消えてしまったが、ジャンプ少年たちの脳裏にその後の人生で決して消えることのない大きな傷跡を残していった。
その作品を20年もたってから、何かの間違いで実写映画化してしまったのが「HK 変態仮面」だ。
原作からタイトルを微妙に改変して、チケットカウンターで「変態仮面」と言わずとも、「HK」だけで購入できるという余計なお世話までしている気合の入れよう。
「勇者ヨシヒコ」シリーズの福田雄一監督作品で、ムロツヨシさんや佐藤二朗さんが出演ということで、大体のテイストは想像できる感じ。テレ東の深夜ドラマを想像すれば間違いなさそう。
予告編を見ると主役の鈴木亮平さんの役づくり(体づくり)が半端なく、原作リスペクトの高さが窺い知れるものの、わざわざ映画館で観なくてもいいかなと思っていたが、妻が観たがっていたのと、最寄りの上映館で鈴木亮平さんが舞台挨拶でお越しになるということもあり映画館に足を運ぶことにした。
劇場は満員で、年齢的には30代多め、女性率は意外と高く男女比2:1ぐらいだろうか。
上映前のマナーCMも特別仕様になっていてテンションが上がる。
司会の映画館スタッフがパンツをかぶって登場し、挨拶を済ませたあと鈴木亮平さんが登場。
鈴木亮平さんは「THAT'S MY OINARI-SAN」Tシャツを着ている以外は普通の服装で、パンツかぶってない。ひょっとしたら中に網タイツを履いていたかもしれないが。
舞台挨拶の内容はメモをとっているわけではないので、話が前後したり多少ニュアンスが違う可能性があるが、それはご容赦いただきたい。
1年前に原作ファンの小栗旬氏から直々にオファーをもらって、徹底的に肉体改造をしたにもかかわらず、肉体を見せるシーンでは基本的に顔が見えない(パンティだけではなく目の部分も漫画風のマスクになっている)ため、代役を使っていると思われることもあるが、全て本人だという。
また、顔につけるパンティは衣装さんが加工した専用品。
既成品は股下部分の幅が広く、目が隠れてしまうため、原作のビジュアルに近くなるよう、衣装さんがゴムを抜いて縫い直してゴムを入れなおしている。劇中でかぶるパンティは多数あり、一つ一つ加工したそうだ。
先日、映画祭(台北ゴールデンホースファンタスティック映画祭)で招待された台湾でも公開が決まっており、日本より小さな島国なのに40館上映。
変態仮面のラッピングバスが120台も台北の街を走るという恐ろしい状態になるという。
※台湾では5月公開予定。ラッピングバスの画像を探したが見つからないので、まだ走ってなさそう。
さらに、劇場には巨大な広告がアイアンマン3と並んで展示されていて、「本当にいいのかな」と思ったそう。
司会者から振り返りシルエットがそっくりという指摘が。
確かに、これ並べちゃいかん。
撮影時の苦労としてはとにかく寒いこと。まあ、(ほぼ)全裸だし。
特に冬の新宿ビル屋上で夜中に何時間も撮影したのがきつかったそうだ。
映画の見所としては教師役の安田顕さんの変態っぷり
助監督に亀甲縛りをされるときに鈴木さんは「もっと緩めて」とお願いしたが、安田さんは「もっときつく」と注文。鏡を見てうっとりしていたという。
観客からの質問コーナーでは、まず無駄毛の処理をどうしているか聞かれた。
舞台挨拶で無駄毛の処理を尋ねるのは前代未聞だ。
脇や股間はあらゆる方法で脱毛を試み、剃毛、ワックス除去を試したが、最終的には毛抜きになったという。
睡眠時間が3時間しかない撮影スケジュールの中で、寝る前にムダ毛抜きをするときに「なにやっているんだろう」という気持ちになったが、伸びた分だけ処理すればいいので、1日15分程度で終わるそうだ。参考になる。
その後、だれも質問の手を挙げなかったので、自分が「撮影時においなりさんはポロリしましたか」と尋ねた(原文ママ)
数百人がいる会場でマイクを持って初対面の人に、睾丸が露出したのか尋ねるのは生まれて初めての経験だった。今後、このような機会は二度と訪れないだろう。
やはり、激しいアクションのため当然ぽろりすることもあり、撮影しなおしたり、CGで消したりしているそうだ。
しかも、カメラからは見えない角度でぽろりすることがあり、撮影的にはOKでも共演者には丸見えになることも多いという。愛子ちゃん(清水富美加さん・18歳)にはバッチリ見えていたでしょうね、とのことでそのあたりの事情を頭に入れておいて演技を見ると違った楽しみ方が出来そうだ。
しかし、想像以上にそういったアクシデントは少なく、あのV字パンツはハイテク水着と同じ素材でフィット感がものすごいそうだ。
あのパンツの内側には実はカップが入っていて、そのカップもスタイリストが2ヶ月かけて改善し、激しいアクションに耐えられるようになっているという、今後の人生でなんの役にも立たない豆知識が得られた。
そして、そのスタイリストは「とんねるずのみなさんのおかげでした」から生まれた音楽ユニット「野猿」でボーカルを務めた神波憲人さん。スタッフロールでも彼の名前があった。
しかも、神波氏はごっつええ感じの伝説的コント「放課後電磁波クラブ」の衣装も手がけていたという。
背中側がV字とY字の違いはあるものの、ほぼ同じデザイン。経験が生かされたいい仕事をしたといえよう。
※放課後電磁波クラブについてはあえて参考リンクを付けないので適当に検索してください。
とにかく熱く語っていて、内容はギャグであっても本気で取り組んだ本気の映画ということは強く伝わってきた。
Youtubeにも彼のインタビューがあるので、映画館に行く前に観ておこう。
映像を見ても分かるように、変態とは対極に位置するサワヤカ青年である。彼にこの役をオファーした小栗旬は鬼か。
さて、映画本編はどうかというと想像通りひどいかった。もちろんいい意味で。
巨大なスクリーンからはみ出さんばかりの白くてフワフワしたラグビーボール状のおいなりさんと称される物体がぐるぐると動きまわる。こんな映画観たことがない。
映画の導入部が丁寧に作られているため、原作未読でも問題ないが、文庫版1巻ぐらいは買っておいたほうが、原作との微妙な違いを楽しめていいと思う。後半部分を含めると差が大きくなるので、全巻揃える必要はなさそう。
CGのクオリティに主に予算的な部分で問題があるものの、アクションシーンの出来栄えは相当なもので、一見の価値がある。
アクションシーンの評価は動きのキレなどのダイナミックさ、つまり「動」の部分に重点を置くのが普通だが、変態仮面のアクションは「動」の部分はもちろんのこと、「静」の部分がきっちりとはまっていて、本当に素晴らしい。
変態仮面が敵に歩み寄るだけのシーンなのに、一歩一歩が完璧に仕上がっている。どのコマを切り出しても原作の一枚絵と見違えるようなポージングが決まっているのではないかと思えるほど。
特にダンスシーンの腰の動きは必見だ。一朝一夕にできる動きではなく、あの短いシーンだけで相当な練習を積んだに違いない。
ストーリーは日本の漫画作品を題材としながらも、典型的なアメコミフォーマットに収まっている。
巨大な力を手に入れた変身ヒーローが、自分と変身後の姿の間で葛藤し、一度は挫折するが戦う意味を見出し巨悪を打ち倒す。まさに、ヒーローオブヒーローといえるだろう。変態だけど。
上映館が少ないせいか、パンフレットがなくて残念だったが、DVDが発売されてコメンタリーで解説がつくことに期待したい。
みんなの記憶に残っている漫画とはいえ、連載が1年で終わった20年前の作品を映画化するという決断と、このクオリティまで作品を作り上げた情熱は素直に褒め称えたい。
それにしても、最近の集英社はいい仕事をしている。徹底的な原作リスペクトのJOJOアニメ&ゲームや、ドラゴンボールZの新アニメ映画、様々なメディアミックスがことごとくハマってる感じがする。
子どもたちに目を向けつつ、ジャンプ黄金期に少年時代を過ごしてきたアラサー/アラフォー世代の心をガッチリとつかむ戦略はどうやって生まれているのだろうか。その世代の社員が決定権を持ち、コントロールできるようになったのだろうか。いいぞ、もっとやれ。
文庫版は全5巻。本棚に変態仮面を置くのが嫌な人はKindle版を買うといい。安いし。
DVDは発売されているものの、残念ながらBlu-ray版はリリースされていない。
DVDはSD画質なので、Huluなどの動画配信サイトで提供されているHD版のほうが高画質だったりする。ただ、アブノーマルパックの映像特典として付属するメイキングは本編以上に感動するシーンもあり、DVDも見ることをお勧めする。
*2016年2月23日追記*
まさかの続編公開決定。
主要キャストは続投、柳楽優弥や木根尚登が新キャラとして登場する。
「HK/変態仮面アブノーマルクライシス」は2016年5月22日公開
第一作のBlu-rayの発売も決まった。
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