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2012年01月31日

任天堂はゲームビジネスを変革できるか?

任天堂は2012年3月期の第3四半期決算短信を発表し、2012年3月期は上場来初の営業赤字となる見通しを示した。

震災や欧州危機による景気の冷え込みや、円高の影響など、様々な外的要因があるが、ニンテンドーDSやWiiのブームが一巡したことや、ニンテンドー3DSの値下げなど任天堂内での問題も多数抱えた結果といえるだろう。

ネガティブな要素だけ見せても投資家から冷たい目で見られるし、来期以降に回復のビジョンを示す必要があると考えたのか、おそらく本来は6月開催の展示会"E3"で発表する予定だったWii Uの新要素を発表してきた。

それが、『今年発売予定の新型ゲーム機「Wii U」のコントローラにNFC機能を搭載』と『ニンテンドー3DS/Wii U を包含するネットワークプラットフォーム「ニンテンドーネットワーク」』という2つの発表であった。

投資家向けの発表会で、Wii Uのゲームプレイで活用する機能や、グラフィック性能、新作ソフトを示しても、インパクトはあまり強くなく、もっと大局的な、つまり任天堂が今後ゲームビジネスに対してどういった取り組みをしていくのかを示す必要がある。そういった意味ではNFC機能の発表はインパクトが強い。

NFCはSuica等のICカードやおサイフケータイで採用されている規格で、電子マネー等に使用されている。

要は、現在クレジットカードやプリペイドカード等で購入する必要のあったニンテンドーポイントがWii Uでは電子マネーで購入できる様になる。そして、3DSとWii Uが同一のIDでニンテンドーネットワークにログインできるようになるのであれば、Wii U経由でニンテンドー3DSのポイントも電子マネー決済ができるようになることを意味する。

単に支払い方法がひとつ増えただけとも言えるのだが、今までの支払い方法と比べて格段に心理的ハードルが下がるのは間違いない。支払いが用意になることで、今まで以上にオンライン購入ソフトに力を入れ、パッケージソフトの追加データの販売も促進されることになる。

追加データの販売に本腰を入れることで、モバゲーやGREE等が争っているいわゆるソーシャルゲーム市場に任天堂が参入するという見方も一部ではある。ただ、任天堂の売上高よりも市場規模が小さいソーシャルゲーム市場に習ったビジネスをするメリットはあまり感じられない。

ソーシャルゲームで問題視される「ガチャガチャ」(ランダム要素のある課金アイテム)には岩田社長は否定的で、『ソフトメーカーとしての任天堂は、どんなアイテムが出るかがわからず、いいアイテムが出るまで、何度もお金を支払って、それがいつの間にか巨額になっているというようなビジネスは志向しておりません。』と発言している。

具体的に任天堂は「とびだすプリクラ☆キラデコレボリューション」で「追加コンテンツ配信を開始する予定」としている。おそらくフレームの追加だろう。その他、スクウェア・エニックスの3DS用リズムアクションゲーム「THEATRHYTHM FINAL FANTASY」での有料の追加楽曲配信も予定されている。「気に入ったソフトで、さらに突っ込んで長期間楽しんでいただくための仕組み」として、有料の追加コンテンツの配信を考えているようだ。

最期まで遊べないパッケージソフトを販売して、続きは有料配信…という仕組みでは反感が多く出るだろうが、例えばスーパーマリオの超難易度ステージや、マリオカートの追加コースなどは受け入れやすいだろう。また、ダウンロード配信タイトルだと触りの部分を無料もしくは低価格で配信し、気に入った人だけ追加ステージを購入するのも魅力的だ。

実はプレイステーション3もUSB接続のICカードリーダを取り付ければ同様のことができるのだが、標準搭載していることは大きな強みといえる。

NFC/ICカードは何も電子マネーだけで使われるものではない。ゲームセンターでプレイ履歴などを保存するカードもICカードだ。ソフト側が対応すれば、ゲームセンターとWii Uで同じデータを共有できる。携帯電話のNFCと通信で写真データを送ったりすることもできる。NFCの採用でこういったプラットフォームを超えたデータのやり取りが期待できる。

ニンテンドーネットワークが整備されることで、パーソナルデータの重要性は増してくるだろう。そして、任天堂が専用のICカードを作れば、そのデータをICカードに格納し、友達の家で自分のMiiやどうぶつの森のキャラ、カスタマイズしたマリオカートなどを使うことだってできる。

ニンテンドーネットワークについてはプレイステーション3やXboxがとっくの昔にやっていたことの後追いではあるが、最後発ならではの革新的な仕組みがあることを期待したい。とりあえずクラブニンテンドーとの統合あたりをやってくれると助かる。

今まで例を上げてきたものが任天堂のゲームビジネスにおいて大きなブレイクスルーになるとは正直思えないが、任天堂ならではの堅実さを保ちつつ静かな変革の片鱗を今年中に見せてくれるのではないだろうか。とりあえずE3でWii Uの新情報に期待しつつ、いつの間にか見かけなくなったWiiバイタリティセンサーに静かに手を合わせたい。


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